★あらすじ
満州帝国とは一体何であったのか。戦後の日本と韓国に大きな影響を及ぼした岸信介と朴正煕の為してきたことを通して、満州国という存在と、戦後の両国の歴史が連なっていることを示していく。
軍事クーデターを起こし、政権の中枢へと就いた朴正煕はかつての満洲人脈を頼り、日本を訪問する。そこで岸信介らと会談を重ねた。「韓国の経済復興に力を貸して欲しい」という朴正煕の依頼を聞き、岸信介は満州での経験を元に「重化学工業を発展させる前にまずは農業政策に取り組み、国の基盤を整えるべき」といった助言を行った。
岸信介は官僚として、農業国だった満州国に重化学工業を根付かせようとしたが、そこに至る前に国そのものが無くなってしまった。戦後、A級戦犯として裁かれようとしていたが、冷戦の急速な進行そして朝鮮半島での紛争により、米国は戦犯の扱い方を変えていく。かくして岸信介は訴追を逃れ、満州で得た知識と経験は政治家に転身した後も活かし、そして“妖怪”とまで言われる存在になっていく。
一方、朴正煕も満州国で軍人として生きていく間に人脈を築き、国造りのノウハウを学んでいく。彼も戦後、日本軍に加担していたことから逮捕され、裁かれようとしていた。しかし、そこでも満州国関連の人脈によって救い出される。そして、クーデターの後に政権を奪取し、北朝鮮よりも貧困国であった当時の韓国を立て直そうと突き進んでいく。だが、そのやり方はあまりにも独裁的だった。
★基本データ&目次
作者 | 姜尚中, 玄武岩 |
発行元 | 講談社(講談社学術文庫) |
発行年 | 2016 |
ISBN | 9784062923545 |
- はじめに
- 第一章 帝国の鬼胎たち
- 第二章 帝国のはざまで
- 第三章 満州帝国と帝国の鬼胎たち
- 第四章 戦後と満州国の残映
- おわりに
- 学術文庫版へのあとがき
- 参考文献
- 年表
- 主要人物略伝
- 索引
★ 感想
日本が満州国をその傀儡として造ったことも、大韓帝国を併合して朝鮮と改称させ支配したことも知っていた。だが、なんとなくそれぞれ独立の事象として捉えていた。本書を読んで初めて“地続き”のことがらだったのだと認識した。満州と朝鮮の“経営”は植民地支配として一体のものであり、それ故に朝鮮の人々にとっても満州とは大きく関わりのあることだったのだと。
長期に渡った安倍政権の功罪はこれから歴史として評価されていくのだろうが、その命脈として満州国や岸信介の存在が繋がっていることを思い起こさせてくれた。「(日本)国を強くしたい」という想いがその根底にあるようだ。そして、それを実践していくのが自分であるという自負と傲慢さ、権力欲がその裏にある。
満州という一つの国をまさにゼロから創り上げていくという経験は誰もができるものではないし、結果としては“失敗”であったとしてもその体験はその後の思考・行動に大きく影響する。戦後になって日本再建を行う際にはどうしても「リベンジするんだ」と言う想いがあったのではないかと思われる。
勉強不足で、韓国の朴正煕が満州国で日本軍に従軍していたとは知らなかった。戦後、軍事クーデターを起こした後に大統領となったことは知っていたが、どのような政策を行ったのかも無知だった。「セマウル運動」なんて、共産主義国(いや全体主義国と言うべきか)がやっているような内容だが、国の、そして結局は自分自身の生き残りを賭けた戦いだったのだろう。似てくるのも必然なのかもしれない。
唐突な感想かもしれないが、権力者たちの争いを知るにつけ、「国」と何なのかと思わずにはいられない。権力の頂点に立ち、支配欲を満たしたいというその欲望は理解できる。しかし、そこにある国とはどんな集まり・塊・存在なのだろうか。なぜ、命を賭して国を守り、国を広げることにここまで執着できるのだろうか。国とはそれほどの意味のあるものなのか。
現代であればそれは教育に依るのだろう。日本史と世界史と区分して教われば、そこで線が引かれる。これをアジア史と世界史という括りに変えればものの見方・価値観も大いに変わってくる気がする。
ここで、「五族協和の考えに立ち返れ」というのではない。国という単位が何なのかよくわからなくなるという話だ。満州国は傀儡国家で、人工的にでっち上げられたものだとはよく聞く評価だが、傀儡かどうかは別にして“人工的”に線引されて作られた国は少なくない。その違いは何なのだろうか。そして、そこに“属している”国民は国という存在をどう捉えたら良いのだろうか。そんなことを考えてしまう。
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