★あらすじ
周囲を海に囲まれた日本は、海産物としてのタコを好んで食べる国民だ。そんな食材としてのタコは馴染み深い存在だが、生物としてのタコについてはよく知られていない。
タコの生活史(一生をどのような形で送るのか)すら不明な点が多い。タコは現在、全世界で250種が知られているが、生活史が謎なものも多い。知られているものとしては、生まれてすぐはプランクトン(海中を浮遊)として過ごす。成長すると海の底に降りていき(着底)、底を這うようにして生活するようになる。雄と雌が交接して卵を産むと、雄は一生を終える。雌も卵を抱いて世話をし続けるが、子どもたちが孵化すると力尽きて死ぬ。この生活史も一部のタコでの観察結果であって、全てのタコに当てはまる訳ではない。成熟しても着底せずに海中を泳ぎ回って過ごす種類もいることが知られている。
タコは、身体のサイズに比して巨大な目を持っている。昆虫などの複眼とは違い、人間と同じでレンズを備えた構造をしている。その目で得られた資格情報を処理する神経や脳も発達していている。実際、丸や四角、L字型などの形状を区別し、視覚による学習もできるという研究結果が報告されている。丸に触ったときにだけ餌がもらえ、別の場合は褒美がないというもので、タコは餌がもらえる丸印を選び出すことができた。
触手による触覚も優れていて、触っただけで形を認識することもできたという実験結果もある。視覚を奪った上で、円柱や円錐などの立体物を触らせ、これも餌による学習をさせて行われた。結果、タコは触手で触ったものの形を判別できたのだ。
★基本データ&目次
作者 | 池田譲 |
発行元 | 化学同人(DOJIN選書) |
発行年 | 2022 |
副題 | 海底の賢者が見せる驚異の知性 |
ISBN | 9784759816884 |
- まえがき
- 第一章 タコの知られざる横顔
- 第二章 賢者としてのタコ
- 第三章 タコの社会を考える
- 第四章 タコが認識する世界
- 第五章 タコ学の挑戦ふたたび
- あとがき
- 参考文献
★ 感想
以前、別のタコとイカに関する本を読み、ここでも紹介しています。
「タコについては知らないことばかりだ」とその時も思いましたが、本書を読んでさらに「へぇ~」となることが何度も。タコってなんとも魅力的な存在です。
タイトルにあるように、タコに“インテリジェンス(知性、理解力)”があるのかを試す実験は興味深い物でした。どうやらタコは学習もできるし、自分自身を認識している(≓自我がある?!)らしい。さらには、一般的には群れを作らずに孤立した生活を好むのに、中には“社交的”な個体もいて、どうやら性格の違いまであるらしい。そんなことが実験で分かってきているそうだ。
可愛いから、という理由でしか考えられない、イルカに対する感情的な動物“愛護”。一方で、人間にとても近く、かなりインテリジェントな猿が「劣った存在」の典型例として昔から扱われ、人種差別の際にもメタファーとして使われている。どちらにせよ、人間の“上から目線”での選別だが、このタコの持つインテリジェンスはどう考えればいいのだろうか。「インテリジェントだからイルカを保護しろ」というのであれば、今後一切たこ焼きもカルパッチョも食べられなくなるでしょう。まあ、それを言ったら牛だって自己と他者を区別できるそうだから、食用かどうかと、インテリジェンスを持っているかは関係ない基準なのかも知れませんが。
余りにも身近すぎるゆえに、返って研究対象となりにくかったタコ。著者はタコ研究への勧誘を本書において随所で語っている。このシリーズ(DOJIN選書)は現場研究者が想いを語っていることも多い。そこがまた読んでいて楽しいし、共感もできる。
タコの生態がまだまだ謎のままなのは、研究が少ないことが大きな要因のようだ。これは他の分野でもある話だろうが、新たな挑戦者が更なる探求を深めることに期待したい。
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