★あらすじ
アフリカ史においては利用できる歴史資料が地理的・時代的に偏りが酷く、サハラ以南のブラック・アフリカでは固有の文字を発明しなかったので、中世アラブやヨーロッパの資料に頼らざるを得ない状況にある。そのため、植民地的歴史観に縛られてしまったり、ヘーゲルに至っては「アフリカは世界史の一部ではない」と断言してしまっている。
その後、各民族集団の文化史や社会史を重視した「ニューヒストリー」の流れによってアフリカ史は再構築されようとしている。だが、文字的資料の乏しさにより口頭伝承や遺物などに頼って進めねばならない困難さに変わりはない。
本書では、「国家」という近代の原理にとらわれることなく、ナイル川、ニジェール川、ザイール川、そしてザンベジ・リンポポ川という五大大河の流域に注目し、各固有の地域形成、特質の説明に努力した。
また、「部族」という言葉は植民地支配の過程で、未開で野蛮な集団という概念で用いられていたため、本書では「族」ではなく「人」、「部族」ではなく「民族」を基本的に用いている。
改訂新版に当たっては、アフリカ社会のダイナミズムと今日の社会におけるアフリカ史を提示している。旧版刊行当時(1990年代)には「絶望の大陸」であったアフリカは今や投資の対象になり「成長に向けたパートナー」となっている。一方で、「テロとの戦争」としても世界のシステムの中に組み込まれている。そこに、ニューヒストリーを超えるグローバル・ヒストリーとしてアフリカ史を捉えなおす動きも生まれている。アフリカから見た世界史像を提示し、人類史全体を捉えなおそうという挑戦だ。
★基本データ&目次
作者 | 宮本正興 (編集), 松田素二 (編集) |
発行元 | 講談社(講談社現代新書) |
発行年 | 2018 |
ISBN | 9784065139486 |
原著 | 旧版:新書アフリカ史(1997発行) |
- はじめに アフリカから学ぶ
- 改訂新版にあたって
- 第Ⅰ部 アフリカと歴史
- 第Ⅱ部 川世界の歴史形成
- 第Ⅲ部 外世界交渉のダイナミズム
- 第Ⅳ部 ヨーロッパ近代とアフリカ
- 第Ⅴ部 抵抗と独立
- 第Ⅵ部 現代史を生きる
- 参考文献
- 筆者紹介
★ 感想
以前、旧版を読んだことがあったが、すっかり中身を忘れていたのと、「改訂新版」として再登場したため、改めて読んでみた。紙の書籍だと784ページあるそうで、いわゆる「鈍器本」だ。前回は紙本を購入したが、さすがに今回はKindle版にしておいた。便利な世の中になったものだと再認識させられる。
さて、アフリカの歴史は地中海側を除いて遺跡調査もなかなか進んでいないようで、千年前となるともう霞の向こう側のようだ。現生人類誕生の地と呼ばれている土地としては寂しい限り。日本史では、卑弥呼の時代はかなり怪しいが、飛鳥時代、奈良時代(1400年前ころ)になれば文字による記録もぼちぼち残っているのでそれなりにどんな政治が行われていたのか、また万葉集などを通して一般の民の暮らしがどんなものだったのかおぼろげながらも語ることができている。その感覚から行くと、アフリカ史は何とも心もとない。「歴史がない」訳ではないのは分かっているが、「五世紀に始まるバナナ革命の後、十世紀ころまでにコンゴ川水界で、、、」、「九世紀初頭には、ルバ王国で鉄・銅の加工技術を持つ人々が居住していた」といった調子の記述になっている。正直、どんな様子だったのかを思い浮かべることが難しいほど情報量が少ない。なんとも歯がゆい。
一方で、アラブの人々との交流の歴史は意外と古いようだ。あらすじにあるように、大河を通じて人や物が運ばれていたし、砂漠でさえもその周辺地を結んだ商業路ができていた。そしてヨーロッパ諸国との関係も生まれ、”記述量”が増えてくる。魏志倭人伝に頼らざるを得ない卑弥呼の時代のようではあるが、これら外からの記述でもないよりはまし。我々が”慣れている歴史の記述”で語られるので、理解しやすいのは確かだ。
まあ、このような視点・考え方・やり方自体を変えていかないと本質は分からないのだろうけど。
改訂新版で加筆された部分では、紛争や飢餓にあえぐアフリカという観念を変えてくれるような内容が多かった。もちろん、今も政情不安定な国はあるし、紛争や飢餓も発生している。が、発展をしている最中であることも感じられたし、政治・経済的には社会主義でも自由主義でもないアフリカ的形態がありそうだということもなんとなく理解できた。罪に対して罰で臨むのは日本でも律令の時代からある原則だが、加害者と被害者が共生できるように社会を修復するという考え方は罪と罰とは全く異なった考え方だ。まだピンとこない部分もあるし、納得もできていないが、学ぶべきことはあるのではないかと感じられた。
アフリカ全土を概観するというだけあって、内容は多岐に渡る。おかげで、感想を書くにもまとまりがつかない。申し訳ないが「自分で読んで」としか言いようがない。しかし、これからの世界を生きる我々には読むべき一冊であることは確かなようだ。本書を手に取ることを強くすすめる。
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