言葉の海をさまよう

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★あらすじ

乃木坂46の鈴木絢音が、辞書製作に関係する人びとと対談をしたものを文字に起こした作品。

「三省堂国語辞典」編纂者との対談では、語釈の面白さを語っている。語釈とは、単語や言葉の意味を説明したり解説したりすること。同じ言葉を説明するにも、辞書ごとにこの語釈が異なり、そこに辞書の“個性”が出ている。
鈴木絢音は新しい辞書を購入すると最初に「右」を調べる。これには辞書編纂者も「プロだ」と賞賛している。誰にとっても違和感のないような説明が求められるので、「右とは箸を持つ方の手の側」等としては左利きの人に怒られてしまう、と言う訳だ。

校正者との対談では、まず「校正とはどういう仕事か」が話題になっている。印刷する前の試し刷りで文字の間違いを見つけるだけが校正の仕事ではない。内容自体がおかしいと思われる場合も、「他の辞書ではこうなっている」などと例示して指摘する。とは言え、筆者が誤りだと認めないとその指摘は却下されてしまうのだそうだ。鈴木絢音も「それは悔しいですね」と同情する。

辞書の「外側」を作る人との対談では、辞書のケースの話を聞く。これは辞書ならではのこと。非常にページ数の多い辞書では、紙の厚さが計画とちょっとでも違ってしまうとケースに収まらなくなる、もしくはスカスカになってしまう。製紙会社にもそのように注文するものの、やはりブレは生じてしまう。そんな時は本の背の丸みを変えたりするなどして何とか対応するのだそうだ。その“現場対応”の能力に鈴木絢音も感心している。

★基本データ&目次

作者鈴木絢音
発行元幻冬舎
発行年2023
ISBN9784344040847
  • 辞書編纂者
  • 辞書編集者
  • 校正者
  • 印刷工場
  • 辞書の「外側」を作る人
  • 辞書を売る人
  • あとがきにかえて

★ 感想

もうすぐ乃木坂46から卒業する鈴木絢音さんは「辞書好き」として知られている。紙の辞書を持ち歩いていて、文章を書くときに常に参照しているそう。さらには、パラパラと辞書をめくって、目に留まった言葉の説明文(語釈など)を読むのだそうだ。今の時代には稀有な存在だろう。だからこそ、こうやって本まで出すに至ったのだろうけど。

辞書に携わる人々との対談集だが、本の出版全般に通じる話も多い。出版業に興味のある人も、そうでない人も、どうやって本が作られていくのか、どんな人がどんな仕事をしているのかを知ることができる。出版業界の入門書でもあるのかな。もちろん、かなり”さわり”の部分だけですが。
実は、我が家の”稼業”は出版業。祖父が出版社に勤めていて、そこから独立して出版社を立ち上げたのが始まり。父親もそれを継いでいる。不肖の息子である私は別の道を選んでしまったが。。。まあ、そんな訳で出版業や書籍の成り立ちに関しては多少は知識がある。それでも、辞書作成勝手委はさすがに知らないので、本書は非常に興味深いものだった。

ギリシア・ローマの時代かから「今の若者は。。」と年寄りは文句を言い、「言葉の乱れ」を嘆く。しかし、言葉は生き物であって、常に変化しているんだということも再認識できた。教科書で習った言葉でさえ、つい五十年、百年前には異なった意味や漢字の読み方をしていたというのだから。だからこそ、辞書を”読む”ことが面白くなるのだろう。本書でも触れられているが、辞書も版を重ねるごとに新語が追加され、逆に使われなくなった言葉が削除されているとのこと。言葉の対象となるものがなくなる場合(「MD」だの「コギャル」だの)もあれば、新たな意味でつかわれるようになって語釈が変更になる場合もある。なるほど、だとすると「辞書を読む」こともそれほど奇異なものではなく、言葉の移り変わりを知るには有効なのかもしれない。

最近はWeb版の辞書で済ませてしまっているけど、本書を読んで、久しぶりに紙の辞書を買ってみようかなと思えた。

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