山室軍平

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★あらすじ

救世軍は十九世紀後半にイギリスで生まれた、キリスト教の一団体だ。創始者のウイリアム・ブースが軍隊様式の組織を作り、伝道と社会福祉を目指したためにこの名前となっている。

山室軍平は、この救世軍の“日本支部”に大きく関わった人物だ。明治後半から大正、昭和の戦前まで山室軍平が中心となって社会福祉活動を行っていく。キリスト教の伝道だけではなく、福祉活動を実践し、廃娼運動にも尽力した。戦中の弾圧を受け、戦後は忘れられた、知る人ぞ知る存在となってしまった救世軍、そして山室軍平だが、一体何を為してきたのかを見ていく。

軍平は岡山県の山村に生まれる。家は貧しく、高等小学校に上がる頃、養子に出される。養子先は質屋を営んでいて、生活に窮した「客」の姿を目にしながら育つ。併せて関学の素養も身につけていった。向学心に燃える軍平は、高等小学校卒業と同時に家出をし、誰も知り合いのいない東京へと旅立つ。そこでキリスト教と出会い、伝道学校へ入学することとなる。その後、新島襄の元で学びたいと京都の同志社に入学するも新島の死によってその願いは叶わない。彷徨するように東京に戻った軍平は、W・ブース率いる救世軍の来日に遭遇する。そこから彼の救世軍人生が始まっていくのだった。

救世軍では、本国英国の「War Cry」に倣って、機関誌として「鬨の声(のちに「ときのこゑ」」を発刊していた。山室軍平はその編集を任されるようになり、自らも記事を書く。平易で、誰にでも分かるような記述を心がけ、救世軍の教えを説いていった。

救世軍の、そして山室軍平の存在を世の中に知らしめるようになったきっかけは「廃娼運動」だった。遊郭に売られてしまった女性を救済し、さらにはその後の生活や自立の面倒も見るための保護施設・職業訓練所までも設けたのだ。明治政府も「娼妓取り締まり規則」などを定めていたが、実質的な効果は薄かった。それを補い、実践していったのが救世軍だった。
山室軍平は、宣教師として来日していたマーフィーに相談し(山室軍平は英語も堪能だった)、何を為すべきかを学び、それを実行に移していったのだった。

★基本データ&目次

作者室田保夫
発行元ミネルヴァ書房  (ミネルヴァ日本評伝選 206)
発行年2020
副題無名ノ英雄、無名ノ豪傑タルヲ勉メン哉
ISBN9784623089635
  • はじめに
  • 凡 例
  • 序 章 近代日本と山室軍平
  • 第一章 少年時代
  • 第二章 同志社時代
  • 第三章 彷徨の旅と救世軍入隊へ
  • 第四章 救世軍初期の活動と結婚
  • 第五章 明治中期の山室と救世軍
  • 第六章 明治末期の都市社会事業と「満州」での事業
  • 第七章 大正初期の山室
  • 第八章 大正期における海外移民伝道――米国西海岸とハワイ
  • 第九章 第一次世界大戦後の社会事業と関東大震災
  • 第十章 救世軍日本の司令官に就任
  • 第十一章 総力戦体制の中で
  • 主要参考文献
  • あとがき
  • 山室軍平略年譜
  • 事項索引
  • 人名索引

★ 感想

私の曾祖父、曾祖母、祖母が救世軍の兵士だった。特に、曾祖父はこの本にも名前が出てくる。そんな訳で、山室軍平の名前は以前から知っていたが、本書を通じてより深く知ることができた。

今では知る人ぞ知ると言った存在の救世軍だが、山室軍平の時代には皇室や首相とも繋がりを持ち、国に代わって社会福祉事業を展開するような存在だったとは驚きだった。さらにその内容も貧民救済、孤児の保護、廃娼運動と時代を先取りした、いや、時代を作っていったものばかり。イギリスやアメリカの先例があったとは言え、それらをやり通す実行力も凄い。
その力はどこから出てきたのだろうか。生い立ちや母の言葉などが本書では語られているが、やはりキリスト教への信仰なのだろうか。でも、狂信的な原理主義者という訳でもない。さらに、政治的な配慮なのか、本気なのか、皇室そして日本国家に対する忠義心も非常に強い。この辺りが山室軍平の不思議なところだし、救世軍自体も偏狭な一神教であるはずのキリスト教の一団体だというのに、“土着信仰”との共存を許している不思議さがある。人を救いたいという想いが、信仰そのものを越えてしまったと言うことなのだろうか。でも、そんなところが山室軍平の、そして救世軍の強さだったのかも知れない。

国力が衰えていき、景気も悪いまま。そして格差も広がっている今の日本。国に任せるだけだと社会福祉も難しくなっているのかも知れない。救世軍のような存在が再び求められている気がします。とは言え、山室軍平のような信念の人はなかなかいないからなぁ。これもメシア願望なんでしょうかね。久しぶりに「伝記物」を読んで、そんな感情が湧きました。

山室軍平の功績が凄すぎてその説明に終始してしまっている感じだったから、もう少し、キリスト教信者でありながら日本の皇室崇拝とどう折り合いを付けていったのかを掘り下げてくれたらさらに面白かったかな。ヒーローの内面にさらに突っ込んで、その正体を見てみたかった。

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