双頭の悪魔

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以下の内容は、いわゆる「ネタバレ」を含んでいます。

★あらすじ

ミステリーサークル紅一点のマリアが親にも詳細を告げずに、謎の村に行ったっきり、帰ってこない。心配した父親がサークルの江神二郎、アリスらに彼女を連れ戻してほしいと頼んできた。彼女が滞在しているのは、金融で財を成した男が廃村を買い取って作った芸術家のためのサンクチュアリのような“村”らしい。そこには何人もの芸術家たちが集まり、共同生活をしているとのこと。だが、高知の山奥にあるその村は外部の者を排除し、村の中に入るのも拒絶している。マリアが自分の意志でとどまっているのか、それとも強制されているのかさえよくわからないのだ。

アリスたちは、村に通じる唯一の道であり、村を隔てる川にかかる橋にやっと辿り着く。だが、カメラマンの男が先にその橋の上で村人たちと小競り合いを起こしていた。カメラマンは村に忍び込もうとして見つかり、追い返されるところだった。アリスや江神たちもその仲間だと疑われ、マリアの名を出しても結局は拒絶されてしまう。しかたなく、夜陰に乗じて村に忍び込もうとしたのだが、江神一人を残してアリスたちミステリーサークルのメンバーは村人たちに見つかり、“強制送還”となってしまった。

江神は無事にマリアと再会し、彼女が自分の意志で村に留まっていることを知る。彼は、村人である芸術家たちからも受け入れられ、これで“事件”は解決かと思われた。だが、芸術家の村で本当の事件が起きたのだ。芸術家の一人が、村にある洞窟の奥で殺されているのが見つかった。

川を挟んだ反対側の村に追い返されたアリスたちは旅館に戻るしかなかった。だが、そこで江神から連絡を受け安堵する。明日にはマリアとも再会できることとなった。ところが、降り続く雨がさらに強くなり、鉄砲水が起きて橋が流されてしまったのだ。マリアと江神がいる村は孤立してしまった。さらに、あのカメラマンが殺されているのをアリスたちは偶然見つけることとなる。

川を挟んだ二つの村で同時に起きた殺人事件。別れ別れになったミステリーサークルの面々。彼らはこの事件の謎に挑戦していくこととなる。

★基本データ&目次

作者有栖川有栖
発行元東京創元社(創元推理文庫)
発行年1999
ISBN9784488414030
  • プロローグ マリア
  • 第一章 夏森の村 アリス
  • 第二章 婚約の宵 マリア
  • 第三章 黒澤明風に アリス
  • 第四章 雨の訪問者 マリア
  • 第五章 闇への供物 マリア
  • 第六章 切断 アリス
  • 第七章 暗い部屋の死 アリス
  • 第八章 ミューズの迷宮 マリア
  • 第九章 密会の果て アリス
  • 第十章 斧とハンマー マリア
  • 読者への第一の挑戦
  • 第十一章 配達されなかった手紙 アリス
  • 読者への第二の挑戦
  • 第十二章 狩猟者の名前 マリア
  • 第十三章 呼び出された者 アリス
  • 第十四章 死の標本 マリア
  • 第十五章 遺留品 アリス
  • 第十六章 迷宮の出口 マリア
  • 読者のへの第三の、そして最後の挑戦
  • 第十七章 失楽の香り マリア
  • エピローグ アリス/マリア
  • あとがき 有栖川有栖

★ 感想

江神二郎とアリスが活躍するシリーズの三作目。二人の“探偵”がいることで、川を挟んで2つの村で起こった事件をそれぞれが追う筋立てとなっている。そして、それが最後に結びつく展開は、本格ミステリーとして申し分ない。しかも、途中で「読者への挑戦」なる章が設けられていて、犯人当てをしろと言ってくる。その大時代的な構成が楽しい。

二つの事件のため、それぞれの事件に関係する人たちがいる。全体としてはかなりの大人数だ。その一人ずつをきっちりと描いていて、話に深みが出ている。ただ、その分、話の展開はゆっくりで、舞台背景の説明だけで随分とページ数を費やしている。それで言えば、ヒロイン役のマリアの“家出”という流れだけでどれだけかかったのだろうか。初めはマリア自身が犯罪の中心に関係している(被害者もしくは犯人)なのかと思えてきたほど。結局は、僻地の村に主人公たちを呼び込むためのものだった訳だ。まあ、その分、主要登場人物への関心が強まり、本作だけではなく、シリーズを通して愛着が深まったので、それはそれでよし。

それにしても推理小説も大変だな、と今回も感じた。いわゆる“密室”を作って関係者を限定させないと推理の範囲が発散してしまう。一作目が火山の山頂、二作目が孤島、そして今回が嵐で孤立した山奥の村落。そうなると、なぜそこに主人公たちが行かねばならないかのお膳立てが必要ということだ。うむ、普通の(?)小説と比べるとなんと制約の多いことでしょう。

まあ、そんな風に作者が苦心惨憺してくれたお陰で読者は楽しめるのだから、感謝しかない。今回もaudiobook.jpのオーディオブックで楽しんだのだが、ラジオドラマのようでさらに面白かった。次回作が出るのが待ち遠しい。

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