NetGalleyを利用して読みました。
★あらすじ
ストリキニーネ
彼女は、耳たぶから下がった肢を、老夫婦に見られないか不安だった。片耳が重い。
彼女たちはホテルに下船し、ホテルに入る。フロント係は彼女の耳をじろじろ見ている。
買い物に出掛け、ヒジャブを買いもとめた。だが、うまく身につけることができず、値切りもせずに店を後にした。
次の朝、耳たぶの肢は胸の下まで垂れ下がっていて、先に指まで生えてきた。その指がボールペンを掴む。何を書いているか分からないが、肢は落書きを続けるのだった。そして、次の朝にはさらに10センチは伸びていて、もうどうしようもなくなっていた。。。
兎の島
彼は発明家を名乗っていた。美術学校で教師を務めていたが、カヌーを作ったことで無人島に行ってみたくなった。そして、川の中州に行ってみた。そこは無人で、種々雑多な植物が生い茂り、虫の羽音、鳥の糞の層があるだけだった。彼は島中心部の茂みを刈り込み、テントを張って一晩過ごしてみた。目覚めた時には身体中、虫にたかられる羽目となった。だが、彼は島を訪れることをやめずにその後も続けた。
その島には鳥が山ほどいて、夜も泣き叫ぶ。彼は鳥を追い払うために、島に兎を放つことにした。雄を十羽、雌を十羽買い求める。兎はすぐに繁殖し、食べ物がなくなってきたら鳥の巣を狙うだろうと思ったのだ。子育てができないと分かれば鳥だって島を去るはずだ。
彼の思惑通り、やがて鳥の姿は島から消えた。だが、今度は兎が増え始めた。そして、鳥という餌を失った兎たちはやがて共喰いを始めたのだった。
最上階の部屋
彼女はホテルで住み込みで働いている。彼女の部屋は最上階。窓からは街が見渡せた。ホテルの目の前には展示会が開催される建物があったため、ビジネスマンが多く、そのホテルを利用した。
ある夜、彼女は夢を見た。川をワニが歩いている夢だ。なぜだかブラジルのどこかのように思えた。翌朝、彼女はホテルに滞在しているブラジル人たちがみな、ワニのマークが胸に刺繍されているポロシャツを着ていたのに気づいた。
他の夜には、支配人が裸でロビーを歩いていて、なぜかフロントにたどり着けないという夢を見た。目覚めた時、彼女は自分が「他人の夢」を見ていると確信したのだった。
★基本データ&目次
作者 | Elvira Navarro |
発行元 | 国書刊行会 |
発行年 | 2022 |
ISBN | |
原著 | La isla de los conejos |
訳者 | 宮﨑真紀 |
- ヘラルドの手紙
- ストリキニーネ
- 兎の島
- 後戻り
- パリ近郊(ペリフェリー)
- ミオトラグス
- 地獄式建築に関する覚書
- 最上階の部屋
- メモリアル
- 歯茎
- 占い師
- 訳者あとがき
★ 感想
小説はミステリーだの時代物だの、ホラーだの、なんらかカテゴリー分けができるものだと思っていた。だが、この作品群はどう分類して良いか分からない。耳から足が生えてきて、周りの人からジロジロ見られるなんてのはホラーなのだろうか。それともカフカの「変身」のような“寓話”なのだろうか。
いや、島に放った兎たちが共喰いをするなんてのはグロテスクな猟奇小説じゃないのか。
ちなみに、Amazonの解説によると「スパニッシュ・ホラー」と呼ばれる怪奇幻想小説に分類されているのだそうだ。「社会的なテーマを織り込みながら、現実と非現実の境界を揺るがす不安や恐怖を描いた作品」が特徴とのこと。
不安や不条理で、読んでいて気持ちが悪くなるほど。でも、それでいてなぜか読み進めてしまう。取り込まれたら抜け出せない、ねっとりとした粘着質の作品ばかりなのだ。
表題作となっている「兎の島」だが、題名だけを聞くと広島県の大久野島のような、ウサギたちと戯れることができる、子どもと遊びに行きたくなる島を想像してしまう。
でも、この作品で描かれたものは全く違っていた。鳥を襲い、共喰いまでする兎たち。確かに、一般的に草食と思われている兎だが、ある種(もしくはある環境下)は雑食で、肉食もするし、共喰いをするそう。とは言え、そこに住む鳥を絶滅させ、自らも共喰いの果てに絶えてしまうなんて、そんな兎を描くことに何の意味があるのだろうか。
スペインの人の感覚が堂なのか知らないのだが、私にはすぐに「盛者必衰」という言葉が思い浮かんでしまう。そしてそれが世の中の摂理だと感じてしまう。さて、この話はそんなことを言いたかったのだろうか。
ちくま文庫の「文豪怪談傑作選」シリーズは好きで何冊か呼んでいるのだが、スパニッシュ・ホラーはまたそれらとは違った雰囲気の作品らしい。他の作家の作品も読んでみたくなった。
★ ここで買えます
原作はこちら。スペイン語版です。
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