文豪怪談傑作選 吉屋信子集 生霊

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以下の内容は、いわゆる「ネタバレ」を含んでいます。

★あらすじ

生霊

終戦後、シベリアから復員してきた菊治は建具職人をしていた。日本に帰り着いたものの行く当てもなく、この別荘地に彷徨いこんだ。避暑地の冬は、どの別荘も人気がない。菊治は一軒の別荘に忍び込み、仮の宿として使わせてもらうことにした。建具職人の技を使い、苦もなく雨戸を外し、入り込む。その別荘はしばらく使われていなかったのか、所々が傷んでいた。宿を借りた礼にと、きちんと掃除をして、持ち前の技術でそこかしこを直していく。壊れて転がっていたバネ仕掛けの空気銃まで修理し、それで雉を撃って食事の材料にもしたのだ。
ある日、この別荘の管理を任されたという老人に出くわすが、老人は菊治のことを別荘所有者家族の中の息子と勘違いする。そのまま、戦地から無事に帰還したことを喜び、雉鍋まで一緒に食したのだった。
やがて菊治もそこを去ることにした。その際、きちんと雨戸を閉め、きれいにしていった。別荘は昔の通りの姿を取り戻していった。

戦地で息子を亡くした家族がその別荘に、息子を偲びにやってくると、管理番の老人からその息子に会って食事までしたと聞かされ、ビックリするのだった。

誰かが私に似ている

戦時中、いよいよ食糧難となり、女学校に通っていた私も両親を助けるため、買い出しに行くことになった。すし詰めの電車にゆられ、辿り着いた藤沢。母に教えられた農家を目指していると、「石塚のお嬢さまじゃないですか!」と声をかけられた。どうやらどこかの屋敷の令嬢に間違えられたらしい。私は否定することなく、お嬢さまになりすますことにした。すると、昔世話になったと言うことで、貴重な食料を一杯分けてもらえたのだ。私は、食料を得た事より、お嬢さま気分を味わえたことがうれしかった。

戦後になり、両親を亡くした私は一人暮らしを始める。ある日、道を歩いていると背広姿の男に「奥様、先日は大変失礼しました」と声をかけられる。どうやら、また人違いをされたようだ。私はまた、その「奥様」になりすました。男は「奥様」の主人に商売上の便宜を図ってもらおうとしていたようだ。「奥様」を通して口利きをしてもらおうと言うことらしい。男は私に十万円の商品券を渡し「よろしくお願いします」と言って去って行った。

だが、次に街で声をかけられた時は。。。

★基本データ&目次

作者吉屋信子
発行元筑摩書房(ちくま文庫)
発行年2006
ISBN9784480422439
編者東雅夫
  • 生霊
  • 生死
  • 誰かが私に似ている
  • 茶盌
  • 宴会
  • 井戸の底
  • 黄梅院様
  • 憑かれる
  • かくれんぼ
  • 夏鴬
  • 冬雁
  • 海潮音
  • 私の泉鏡花
  • 梅雨
  • 霊魂
  • 鍾乳洞のなか

★ 感想

著者の吉屋信子(よしやのぶこ)は明治生まれで、1920年から1970年にかけて活躍した小説家とのこと。Wikipediaによると「少女小説の元祖」のような人だったらしい。「良人の貞操」や「安宅家の人々」などの作品が映画、ドラマにもなったそうだが、私自身は全く知らず、この作品集が“初めまして”だった。
以前、「「文豪怪談傑作選 小川未明集 幽霊船 」:ぶんじんのおはなし:So-netブログ」を読み、このシリーズが気に入って本書も買ってみた次第。ただ、シリーズの作品の多くが品切れ状態なのが寂しい。Kindle版で再販してくれないかな。

さて、これらの作品が「怪談」なのかどうかはむずかかしいところだ。幽霊やお化けと言うよりは、狐か狸に化かされたような話だったり、表題にもなっている「生霊」では、生身の人間が死者に見間違えられたという話だ。どれも、恐ろしいと言うよりは、「そんなこともあるかも知れないね」という程度。
とは言え、ちょっと変わった題材の話が並んでいて、ミステリーでもラブ・ロマンスでもないし、敢えて分類するとしたら「怪談」となったのだろう。でも、そんな分類の良し悪しは関係なく、なぜか惹かれる作品が多かった。

例えば「冬雁」は、男運のない女性の短い一生を描いた作品だが、なんでこんな奴と一緒になるんだ?他にやりたいことはないのか??と、「?」マークばかりが頭の中に渦巻いてしまった。著者と私のジェンダーの違いなのか、時代が異なっているからなのか、主人公に対して理解も共感も出来ないのだ。それなのに、なぜか途中で止められずに最後まで読んでしまった。なんと言うか、現代の(と言っても戦中・戦後の話だが)お伽噺のような感じなのだろう。教訓めいた話や人生観のようなものはやんわりと奥底に沈んでいて、話全体としてはふんわりとしている。なので読んでしまうのだが、そのうちにじんわりと人の性(さが)や弱さみたいなものが透けて見えてきて、なるほどねぇという感覚になるのだろう。

著者の他の作品も読んでみたくなった。また、「安宅家の人々」は映像でも観られるようだし、機会があったら観てみたい。

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