★あらすじ
古代から現代まで世界哲学史を一望に収める八巻シリーズの第一巻。
これまでの哲学史は、古代ギリシア・ローマからキリスト教中世、ルネサンス、そして近現代と、ヨーロッパ・アメリカを範囲とする思想を語るばかりであった。西洋哲学史==哲学史の流れでは、中国思想史やインド思想史、イスラム思想史は独立に扱われるのみだった。それを反省し、「世界哲学史」としてまとめるのが本シリーズの目的である。そのために、諸々の伝統を時代ごとに見ていき、中間地帯や相互影響、受容や伝統を見ていく。
哲学の始まりをまずは見ていく。そのためには古代文明を考える必要がある。中国黄河流域では諸子百家が、ガンジス川・インダス川流域では古代インド哲学が、そしてナイル川とチグリス・ユーフラテス川流域のオリエント文明を受け継いだギリシア哲学が生まれた。ヤスパースは「枢軸の時代」と名づけ、世界史を為す三つの「軸」と捉えた。その「軸」が相互に出会えば、すぐに理解し合うことが可能と語る。
とは言え、一般に哲学はギリシアから始まるという考えがローマ時代に既に固まっていた。哲学を表す「フィロソフィア」はギリシア語の合成語であり、ラテン語を始め諸言語でそのまま使われている。そして、キリスト教の流れと結びつき、「非西洋」が排除される構図となってしまった。
そのため、「世界哲学」を語るには普遍的な起源論の模索が必要だ。古代中国やインドでどのように哲学が繰り広げられたかを見るべきだ。人類が自然に行ってきた思考や生き方を越えて、「哲学」という知的営為がどのように成立したかを、普遍性を持って語れるかが課題なのだ。
古代メソポタミアにおける思想は神を祀る宗教から切り離せない。世界の成り立ち、人間の存在意義を神々との関係から語っているからだ。彼らの神観念は多神教的。都市には必ず神殿があり、それら神々の誕生に始まる世界創造の物語が作り上げられた。また、日・月・年の時間概念も、天体の運行を元に数えるという神話から生まれている。
さらに、事物に対して名前を与える・名づけることによってそれが存在する状態になる、という考えを持っていた。
このように、古代メソポタミアではギリシアに先立つこと数千年前から独自の思想が作られていたのだ。
★基本データ&目次
編者 | 伊藤邦武,山内志朗, 中島隆博, 納富信留 |
発行元 | 筑摩書房(ちくま新書) |
発行年 | 2020 |
副題 | 古代I 知恵から愛知へ |
ISBN | 9784480072917 |
- 序章 世界哲学史に向けて
- 第1章 哲学の誕生をめぐって
- 第2章 古代西アジアにおける世界と魂
- 第3章 旧約聖書とユダヤ教における世界と魂
- 第4章 中国の諸子百家における世界と魂
- 第5章 古代インドにおける世界と魂
- 第6章 古代ギリシアの詩から哲学へ
- 第7章 ソクラテスとギリシア文化
- 第8章 プラトンとアリストテレス
- 第9章 ヘレニズムの哲学
- 第10章 ギリシアとインドの出会いと交流
- コラム1 人新世の哲学
- コラム2 黒いアテナ論争
- コラム3 ギリシア科学
- あとがき
- 年表
- 人名索引
★ 感想
確かに、哲学というと「そ、そ、ソクラテスか、プラトンか~♪」と言うのが”常識”になっている。メソポタミア文明といっても、シュメール”神話”としてしか知らない。中国の諸子百家は良くて実践哲学、悪ければ(?)処世術という感じ。また、インド哲学は唯一”哲学”と称されているけど、なんか神秘主義のイメージが強い。イスラム思想史に至ってはほとんど知らないのが正直なところ。
また「オリジン・ストーリー | Bunjin’s Book Review」を読んで、ビッグヒストリーという考え方の可能性を感じるとともに、まだ諸分野の寄せ集めのように感じてしまっていた。
そんな時に筑摩書房の案内でこのシリーズの発刊を知り、面白そうと思って読み始めた次第。最初から電子書籍としても読めたのがさらに良し。
そのシュメール神話も、「思想」として解釈するとずいぶんと違って見えてくるんだなと驚き。「シュメル神話の世界 粘土板に刻まれた最古のロマン (中公新書)」を読んだ時には、低級の神々が仕事に疲れて、その方代わりをさせるために人間を作った話を知ったが、その時には「神々も楽じゃないんだ」としか思わなかった。でも、人間側から見ると、「だから人生は苦労の連続で、仕事は辛いが、それでも生きていかねばならないんだ」という思想がそこにあったということに改めて納得。
中国の「胡蝶の夢」の話でも、夢と現実に区別がないということではなく、逆に生と死が明確に区分されている「物化」という思想を表しているのだといことも初耳。自分の周り(近傍)しか理解をしておらず、世界全体を見ることはできない。別の近傍に移ると、自分が蝶になったかのように変化して見えるということらしい。うむ、深い思想ですね。
とは言え、「で、世界哲学史って?」というそもそもの問いにまだ納得いく話は出てきていない。なにせ一巻目ですから、シリーズを追って行けばわかっていくのでしょう。全八巻とのこと。先は長そう。でも、それぞれの話が面白いので、飽きずに読めそうです。
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