★ あらすじ
「何を見たらいいのかわかりません!」―そんな美術鑑賞にさようなら!これからはもう一歩作品に踏み込みましょう。しかも超簡単!「上手さを知るには手を観る」「プレートは必ず読む」「誰かと一緒に観に行く」「評価のチェックリストを作る」…。1年に300以上の展覧会に足を運ぶカリスマ・アートブロガーが、美術の本質を見極めながら、広くて深くてしなやかな美術鑑賞法を教えます。
これまでの画集や、画家の生涯を紹介した書籍はその道のプロが書かれたものが大半で専門的な内容だ。本書は素人による素人のための「美術鑑賞超入門書」だ。
名前も知らない画家の作品をどのように観たら良いのか。その画家を知らなくても、第一印象で「上手い」と思えたらそれでよし。ただ、西洋絵画の場合はほとんどが歴史画と呼ばれるもので、ギリシャ神話やキリスト教をテーマにしたものが多い。そのため、聖書のエピソードを知らないとピンとこない。もちろん、美術鑑賞のために聖書の勉強をしてみるのも良いが、まずは素直に作品の横にあるキャプション(説明書き)を読んでみよう。そこには、背景となっている逸話が紹介されているはずだ。神話を隅から隅まで暗記しておくことはなく、絵画作品を見た時にちょとずつ頭に入れていこう。
一方、有名なセザンヌだが、彼はなぜ「近代絵画の父」と呼ばれているのだろうか。それは、ポール・セザンヌの影響を受け、ナビ派やキュビスム、抽象主義が生み出されていったからだ。だが、美術館で「サント=ヴィクトワール山」を描いた作品を観ても、この絵の何処にそんな秘密が隠されているのか分からないかも知れない。
セザンヌやモネの時代には既に写真技術が発達していた。リアルに描くのであれば写真にかなう訳がない。画家は、写真とは異なる世界を描こうと模索し、それを為し得たのがセザンヌだったのだ。セザンヌは見た景色を頭の中で再構築し、描いたのです。そこには遠近法で必須の消失点が存在せず、色々な角度から見た場面が盛り込まれている。色彩の点でも従来とは異なっていて、山肌と空とを同系色にして、一体化したように見える。一方で、その補色となる色を画面の反対側に用い、全体としてバランスがとられているのだ。
ただ、そんな難しいことは置いといても、セザンヌのタッチ(筆致)を楽しんでみよう。絵にぐっと近寄って見てみると、斜め四十五度の筆さばきが見えてくる。とてもリズミカルで、「サクサク」という音が聞こえてくるようだ。
★ 基本データ&目次
作者 | 青い日記帳 |
発行元 | 筑摩書房(ちくま新書) |
発行年 | 2018 |
ISBN | 9784480071521 |
- はじめに
- 西洋美術を観る
- 第1章 聞いたこともない画家の作品を鑑賞する時は:グエルチーノ<ゴリアテの首を持つダヴィデ>
- 第2章 フェルメールは何がすごいのか?:フェルメール<聖プラクセディス>
- 第3章 作品の世界に溺れて観よう!:モネ<睡蓮>
- 第4章 なぜセザンヌは「近代絵画の父」なのか?:セザンヌ<サント=ヴィクトワール山とシャトー・ノワール>
- 第5章 使う場面を想像しながら観る:ガレ<蜻蛉文脚付杯>
- 第6章 これが名画? はい、そうです!:ピカソ<花売り>
- 第7章 美術鑑賞は格闘技だ!:デュシャン<彼女の独身者によって裸にされた花嫁、さえも>
- コラム1
- 日本美術を観る
- 第8章 水墨画を味わうために:雪舟<秋冬山水画>
- 第9章 教科書に出ている狩野派の味わい方:狩野永徳<檜図屏風>
- 第10章 デザインを語るなら観ておくべし:尾形光琳<燕子花図屏風>
- 第11章 「なぜその作品を作ったか」で観る:伊藤若冲<動植綵絵>
- 第12章 観られない作品ほど観たい:曜変天目
- 第13章 今、話題の超絶技法に驚く!:並河靖之<藤花菊唐草文飾壺>
- 第14章 女性ならではの美の表現とは?:上村松園<新蛍>
- 第15章 同時代のアーティストを応援しよう:池永康晟<糖菓子店の娘・愛美>
- コラム2
- あとがき
★ 感想
美術ブログでおなじみの「青い日記帳」の”中の人”Tak(タケ)さんによる一冊。本当に分かり易い。そして納得感たっぷり。構成が良いですね。最初の章が「聞いたこともない画家の作品を鑑賞する時」の話ですから、テーマに対していきなりの結論という感じです。でも、確かにその通り。専門家でもない限り、美術展に行ったら「初めまして」の画家・作品が必ずあるでしょう。そこでは自分の第一印象に素直になれ、と言ってくれています。肩の力を抜いて作品を楽しみましょうと言うことですね。それでいて、すぐに「描かれた人物の視線の先を追ってみよう」とマニアックな鑑賞方法も紹介したりして、美術鑑賞好きの人たちにも向けた話が続いている。
また冒頭で、その道のプロが書いた書籍は画家の生涯を語るにも専門的すぎる、と言いつつ、本書でもちゃんと画家一人一人の生涯を紹介してくれている。作品を楽しく観るためにはこれくらいの知識はバックグラウンドとして持っていた方が良いよ、と言ういい塩梅の分量で。
最近の「怖い絵」ブームでも分かるように、一般の人々だって面白そうと思えば絵画作品の背景を知るために知識を得ようとするもの。知的好奇心は誰だってあるはずだ。それを、身近な物事を比喩にして語ってくれているので、それも分かり易かった。
現代美術についてもちゃんと語っている。古典的作品ならば、少なくとも観れば何が描いてあるかはわかる。キュビスムの作品でさえ、「これは人の顔だな」くらいは分かるだろう。でも、現代美術作品の中には、いや多くには、何が描かれているのか、何を言いたいのかサッパリ分からないものばかり。ピエト・モンドリアンの「コンポジション」くらいならばまだ「色合いがきれい」くらいは言えるけど、マルセル・デュシャンになると「なんで便器がアートなんだ?!」となってしまう。そんな現代美術の鑑賞方法についても”逃げる”ことなく語っているのもさすが。
現代アートは「考える」「解釈する」アートであるとした上で、「直感で良し悪し・好き嫌いを判断して良い」としている。こう言い切ってくれると納得できる。そして、自分が気に入らなかった時には堂々と「こりゃダメだ」と言える勇気をもらえた気がする。
と言うことで、美術館にはたまにしか行かないよと言う人にも、それなりに通っている人にもおすすめできる一冊でした。
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