★あらすじ
バレリーナを夢みていた製薬会社社長令嬢の朋美は、樫間高之と出会って新たな喜びに包まれていった。二人は互いに惹かれあい、婚約にまで至ったのだ。だが、結婚式を目前に朋美は交通事故で命を落としています。スピードの出し過ぎだったのか、一人で運転する自動車が崖から転落してしまったのだ。
それからしばく後、製薬会社社長で朋美の父である森崎伸彦は、娘を弔うために高之や、朋美の従姉妹の篠雪絵、友人だった阿川桂子などを、自身の所有する別荘に招待した。集まったのは全部で八人。誰もが朋美の想い出にふけつつ、静かな時間が流れていった。
だが、阿川桂子が発した言葉でその雰囲気は一変する。彼女は、「朋美は事故死ではなく、殺されたのだ。事故にしては不審な点が多すぎる。犯人は身近な人物に違いない。」と言い出した。実は、朋美の両親の信彦・厚子も、兄の利明も、事故と言うことには納得できていなかったのだ。とは言え、具体的な証拠などがある訳でもなく、みんなモヤモヤとした状態に陥ってしまった。
そんな時、状況を一変する事件が起きる。銀行強盗を働いた二人組が、一次的に身を隠すためにこの別荘に侵入してきたのだ。彼らは事前に人目に付かないこの別荘に目を付けていて、誰もいないと踏んでやってきた。だが、運悪く八人もの“人質”を抱えて籠城する羽目になってしまったのだ。犯人を捜して辺りを聞き込みに回っている警官たちもいて、犯人たちはすぐには動けない。そして突如、監禁されることになってしまった八人も、犯人たちに従って大人しくしているほかなくなった。
だが、悲劇はそれからが本番だったのだ。そんな緊迫した状況の中、篠雪絵が殺されたのだ。こんな状況の中、誰が殺したのか。誰もが銀行強盗の仕業と初めは思ったがそうではなかった。犯人はここに集まった人々の中にいるのだ。誰がそんなことを、そしてその動機は。朋美の死の謎とともにみんなが疑心暗鬼となっていく。
★基本データ&目次
作者 | 東野圭吾 |
発行元 | 講談社(講談社文庫) |
発行年 | 1995 |
ISBN | 9784061859661 |
- プロローグ
- 第一幕 舞台
- 第二幕 侵入者
- 第三幕 暗転
- 第四幕 惨劇
- 第五幕 探偵役
- 第六幕 悪夢
- 解説 折原一
★ 感想
伊藤万理華が出演すると言うことで、舞台『仮面山荘殺人事件』を観に行くつもりだ。そのため、事前に原作を読んでみた。
東野圭吾というと、阿部寛主演ドラマの「新参者」ではっきりとその名前を知るようになった。その後、実はあのドラマの著者もそうだったのかと、よく観ていた人だったと知った由。それからやっと原作を何冊か読むようになった。そして本作は1990年に発表された(文庫になったのはその五年後)、初期の作品にあたる。その後の“人情もの”的な作風に比べると、ミステリーの王道の“トリック”に重きを置いたものだと感じた。
ミステリーに現実性は必要か。なかなか難しい話だ。そんなことあり得ないよ!と思えるほど、あまりに突拍子もない、偶然に偶然を重ねないとそんなことは起きないよという話だとさすがに白けてしまう。だが、ツアーコンダクターやタクシー運転手が探偵役になっていること自体、現実離れしているが、それでも話は楽しめる。ということで、銀行強盗に“籠城”された別荘の中で殺人事件が起きてもまあ許せる範囲の設定かなと思えた。ただ、ちょっと作り込みすぎたせいだろうか、途中で先が読めてしまえた残念さはある。ミステリーの醍醐味である、“最後のどんでん返し”が半分過ぎくらいで予想できちゃったのだ。まあ、犯人の目星が付いた程度だったので、他にもあっと思わせるところがあって、充分に楽しめたが。
別荘の中という閉ざされた空間で、登場人物も限られている。その意味では舞台化するには適した作品だろう。時刻表片手に電車を乗り回すような話よりは、舞台化されたら落ち着いて観られそう。その点では期待大だ。なにせ、章立ても一章、二章と呼ばず、「第一幕 舞台」などとなっているところから、著者も最初から芝居の戯曲のイメージで書いていたのだろうか。
そんな場面を想像しながら読むと楽しめる一冊でした。
それにしても東野圭吾作品は電子書籍化はされていないんですね。今後に期待。
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