★あらすじ
新たな遺跡が発掘されたり、新資料が見つかったりしたらもちろん、既存の資料を精査していって新たな“解釈”がされると、それまでに語られていた歴史が書き換わることがある。日本史の教科書にも載っている“常識”と思われていることが覆されることがあるのだ。事実、あなたが子どものころに学校で習った教科書と、今の子供たちの教科書では随分と内容が変わってきている。
● 稲作は縄文時代から始まっていた
これまでの教科書では、「弥生時代の始まり==稲作の始まり」となっていた。そして、縄文時代は狩猟・採集生活が主体だったとされていた。そして、稲作は中国長江下流域から朝鮮半島を経由して日本に伝わった、という説が一般的だった。
しかし、縄文時代の遺跡から稲作の痕跡と思われるものが発見されてきた。福岡市の板付遺跡や、唐津市の菜畑遺跡からは水田跡が見つかった。また、稲作の伝来ルートについても、南島の熱帯ジャポニカ米と弥生時代の炭化米のDNA比較によって、従来の朝鮮半島経由だけではない、南島ルートもあるとの説が出ている。
● 聖徳太子は実在しなかった
聖徳太子の存在を示す資料とされていた天寿国曼荼羅緞帳は、近年の研究によって後世の作であることが判明した。また、聖徳太子の肖像画と言われるものも、描かれた冠や着衣、笏が当時は存在しなかった(後世のものだった)との指摘がされ、8世紀半ばに描かれたものというのが現在の定説となっている。
ただ、モデルとなった人物は実在し、それが厩戸皇子だというのが新たな説となっている。そのため、最近の教科書では「厩戸皇子(聖徳太子)」「厩戸王(聖徳太子)」と記述されるようになっている。
● 義経の「鵯越の逆落とし」はなかった
源義経が平家に対して行った奇襲戦法として有名な「鵯越の逆落とし」。一ノ谷の合戦において平家が陣取った場所は獣しか通れないと言われた山を背にした難攻不落の地だった。しかし、義経はその険しい山(鵯越)を通って、油断していた平家の軍勢に奇襲をかけたのだ。
というのがこれまで語られてきた有名な話だ。しかし、その奇襲戦法そのものの存在が否定されている。鵯越という地名は今もあるが、険しい場所ではなし、そこを通っても肝心の一ノ谷にはたどり着かないのだ。奇襲戦法があったとしても、場所が違っていたとの説もある。
だが、そもそも一ノ谷の合戦の勝因は義経の戦闘結果ではなく、後白河法皇の計略によるものだと言われている。法皇が、「和平交渉を進めているので、次の使者が来るまで戦闘を控えるように」とのメッセージを平家側に対して送っていた。法王の指示(院宣)には従わざるを得ず、武装解除状態となっていたのだ。そこへ源氏の軍勢が攻めてきたため、平家の陣は総崩れとなってしまったのだった。
★基本データ&目次
作者 | 日本歴史楽会 |
発行元 | 宝島社(宝島SUGOI文庫) |
発行年 | 2017 |
ISBN | 9784800269089 |
- 第1部 相次ぐ新発見で定説が覆る先史編
- 第2部 歴史の常識が次々と否定される古代編
- 第3部 新資料で真実が明らかになる中世編
- 第4部 あのエピソードは虚構だった近世編
- 第5部 偉人のイメージが大きく変わる近代編
★ 感想
各トピックスに対して4~6ページで、既存の“歴史”の概説と、新たな説の紹介という形で列挙しています。さすがにこのボリュームだと、そう言う話があるのか、程度で終わってしまっています。まあ、ネットのまとめサイト的な感覚でしょうか。軽めの読み物です。とはいえ、雑学レベルでもここまでいろんなことを知っている人は少ないでしょうから、いいレベル感だと思います。個々の案件についてちゃんと知りたい場合は、巻末に参考文献があるので便利。
歴史好きな人ならば「もう知っているよ」という話も多いかも知れません。さらには、千利休の切腹の真の理由なんて項目もありますが、最近だと、実は切腹などしていなくて、単に九州に左遷させられただけ、という話も出ているくらいです。また、平家の一ノ谷の合戦の話も、吉川英治の「新・平家物語」(1950年代に発表)でも語られているので、それほど耳新しいものではないかも。
とは言え、これだけまとまって「実は、最近ではこう考えられているんだよ」という話が次から次に出てくるってのは楽しいもの。知っている話も、初めて聞いた話も、どちらもそれなりに楽しめます。もう一度、歴史を勉強し直そうかなと言う気にさせてくれました。そして、最近の日本史の教科書を読んでみたくもなります。どれだけ違っているんでしょうね。残念ながら子供の頃に使っていた教科書はもう処分してしまってなくなっているので、比べてみることはできないんですが、記憶を頼りに最新の教科書と読み比べてみるのも“間違い探し”(?)の感覚で面白いかも。もちろん、手元に教科書がとってあるという人は、まずは本書の内容と比較してみましょう。年代によって「確かに違っている」となったり、「自分の奴はもう変わっていた」となるかな。
あと、参考文献として挙がっているものはほとんどが文庫本や新書なので、手に取り易そう。その点は、本書が専門家・学者の著書ではないことの、ある意味の良さでしょう。
別の観点でみると、史実と思っていたことが後世の創作だったりすることがかなり多いことにも驚き。今風に言えば、情報操作、イメージ戦略ってところでしょうが、まさに現代社会においても気をつけねばならない大きな問題。何が真実か、何を信じるべきか、「歴史を見直す」力を養うことによって、今を生きる我々にも直接的な意味がありそう。歴史を学ぶということは今を知る、未来を考えることにも通じるものだと再認識したのでした。
ちなみに本書は、歴女で知られている乃木坂46 山崎怜奈さんご推薦です。
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