批評理論を学ぶ人のために

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★あらすじ

二十世紀から今に至る、西洋と日本における批評理論の主な潮流を紹介する。各理論の開設と同時に、個別の作品を題材に分析している。理論と実践とを合わせて示す。

構造主義

スイスの言語学者フェルディナン・ド・ソシュールは言葉を記号とみなし、その体系を研究した。そこで見出した概念が「対立」だ。言語活動はすべて二重の用語で規定されとるとしたもの。「音:シニフィアン(意味するもの)」と「意味:シニフィエ(意味されるもの)」だの、「個人(各人の発話)と社会(社会体系としての言語体系)」だのだ。

レヴィ=ストロースはさらに発展させ、「構造分析」として言語を見ていく。

脱構築批評

ジャック・デリダらによる批評理論。二項対立という制度内部に封じ込められてきた差異=矛盾を開放することを目指す。その論文「人間科学のディスクールにおける構造、記号、ゲーム」においてレヴィ=ストロース批判をする。自然に対して人間が対峙するという対立は成り立たず、人間も自然に内包されるものだ、といった主張だ。

生成論

文学作品の生成を対象とする学問で、「作品は制作過程の所産」とみなす。そのため、文学作品の(最終版を)唯一の「決定版」として絶対視するのではなく、制作途上で生起した作品の多数の可能性と突き合わせながら再考していくことを行っていく。そのため、制作過程そのものを定義し、以下の順に行われるものとして、それぞれの段階における分析を行っていく。

  • 前=テクスト
    • 前=執筆段階
    • 執筆段階
    • 前=刊行段階
    • 刊行段階
  • 整理・解読
  • 解釈

ただ、近年では原稿用紙による”制作”が減り、電子デバイスによる文学作品の執筆が増えていき、制作過程を見ていくことが困難になるという問題も生じている。

★基本データ&目次

編者小倉孝誠
発行元世界思想社
発行年2023
ISBN9784790717768
  • はじめに
  • Ⅰ 記号と物語
    • 第1章 構造主義
    • 第2章 物語論
    • 第3章 受容理論
    • 第4章 脱構築批評
    • コラム 法と文学
  • Ⅱ 欲望と想像力
    • 第5章 精神分析批評
    • 第6章 テーマ批評
    • 第7章 フェミニズム批評
    • 第8章 ジェンダー批評
    • 第9章 生成論
    • コラム 研究方法史の不在
  • Ⅲ 歴史と社会
    • 第10章 マルクス主義批評
    • 第11章 文化唯物論/新歴史主義
    • 第12章 ソシオクリティック
    • 第13章 カルチュラル・スタディーズ
    • 第14章 システム理論
    • 第15章 ポストコロニアル批評/トランスナショナリズム
    • コラム 文学と検閲
  • Ⅳ テクストの外部へ
    • 第16章 文学の社会学
    • 第17章 メディア論
    • 第18章 エコクリティシズム
    • 第19章 翻訳論
    • コラム 世界文学──精読・遠読・翻訳
  • あとがき
  • 参考文献
  • 事項索引
  • 人名・作品名索引

★ 感想

このブログでは見ての通り、自分の読んだ本の感想を書いている。どれも”感想文”のレベルだ。世の中にはそんな感想文ではなく、文学作品を批評分析している人がいる。また、それが学問の一つとして確立している。大学には文学部が存在し、そこで日夜研究が行われている訳だ。我々が普通に(?)本を読んで感想を抱くのに対して、彼らは何をしているのだろうか。どんな風に作品を”解釈・分析”しているのだろうか。実は私はよく知らなかった。そんな疑問に答えてくれそうということで、本書を読んでみた。

科学の世界では、現象を見てそこに規則性を感じ取り、それを説明できる理論を立て、その理論から予想される「仮設」が本当に起こるか実験して確かめる、そんなアプローチをとる。批評理論は、文学作品やその著者がまず存在して、それを「ある視点」から眺めて解釈する、という手法のようだ。化学では、「仮説」に反する事象が観測されると、その理論が間違っていると判断される。一方で、批評理論では、批評方法の”検証”が為されるわけではない。文学作品と批評理論とは対等と言うか、互いに刺激しあうもののようだ。

同じ作品でも異なった批評理論で分析・解釈すると異なったものが出てくる。これはなかなか楽しいことだろう。その意味ではとても相対的で、どの批評理論が”より良い”ということはない。時代とともに価値観・常識(共通感覚としてのCommon Sense)は変わる。
逆に批評理論を見ていけばその時代の価値観が分かりそう。ジェンダー批評、マルクス主義批評、ポストコロニアル批評など、その時代背景がよくわかる。これは対象となった文学作品うんぬんよりも、その時代の人々の価値観・共通感覚を知る良い方法だ。
中世ヨーロッパの美学について書かれた本を読むと、当時の人々が「自然の中に神の啓示・メッセージを見出そうとしていた」ことが分かる。それが彼らの共通感覚だったわけだ。そんな風に、歴史を理解するバックボーンとして、当時の、その土地での「批評理論」を知るのも面白そう。

本題とはだいぶずれたが、そんなことを考えさせてくれた一冊だった。批評理論入門にはピッタリだ。だが、自分も実践してみようとするとそれぞれの理論をもう少し深堀する必要がありそう。

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