この作品はaudiobook.jpで購入したオーディオブックで聴きました。
★あらすじ
第二次大戦後、イギリスのダーリントンホールは主(あるじ)のダーリントン卿が亡くなり、その後、アメリカ人のファラディ氏の手に渡る。その際、ダーリントン卿の執事として長年勤めていたスティーブンスはファラディ氏に請われてそのまま屋敷に残り、新たな主人の元で働くこととなった。
新たな主人がアメリカ人であることや、昔に比べて大幅に使用人が減ったことで、ベテラン執事のスティーブンスは完璧に仕事をこなすことが難しくなってきたと感じていた。そんな折、ファラディ氏の長期外出に伴い、スティーブンスも休暇をもらった。しかも、自動車を使うことも許された。スティーブンスはかつてダーリントンホールの女中頭だったミス・ケントンを訪ねることにする。彼女に館へ戻ってきてもらおうと考えたのだ。
旅の途中、スティーブンスはダーリントン卿に仕えていた頃を思い出しながら、執事という自分の仕事がなんたるものであるのか、ダーリントン卿がイギリス紳士として如何に活躍していたかを回想していく。
戦前のダーリントンホールには多くの著名人が招かれ、イギリスはかくあるべきの議論が為され、また戦争を阻止すべく、ドイツからも要人を招き、密談を行っていた。スティーブンスは執事として彼らをもてなし、それら重要な会議を円滑に進めるべく日々、精力的に働いていた。そして、そんな仕事にスティーブンスは誇りを持っていた。
ミス・ケントンは価値観の違いからぶつかることも多かったが、スティーブンスは彼女を女中頭としてその才を認めていて、頼りにもしていた。
だが、戦争を通して世界は大きく変わっていき、華やかだったダーリントンホールにも陰りが広がっていったのだった。
スティーブンスは旅の途中で色々な人々との出会い、交流を通し、過去の出来事を振り返っていく。
★基本データ&目次
作者 | カズオ・イシグロ |
発行元 | 早川書房(ハヤカワepi文庫) |
発行年 | 2001 |
ISBN | 9784151200038 |
訳者 | 土屋政雄 |
★ 感想
「古き良きイギリス」がどんなものか全く知らないが、「執事」という存在がそれを体現しているということにはなんとなく納得してしまう。謙虚というか、とにかく自分よりも主人のことを第一に考えることが「執事」の基本なのだろう。それ故か、喋り方がとても回りくどくなる。でも、その回りくどさがクセになるというか、読んでいて(聴いていて)とてもいい。この文体がまどろっこしいと思う人もいそうなので、良し悪しはあるのかも知れないが、私はとても気に入った。
スティーブンスのかつての主人だったダーリントン卿は、結果として政治的には誤った判断をし、不遇の晩年を過ごす。スティーブンスもそれを理解しつつも「主人への忠誠心」は持ち続け、“分析”はしっかりするものの決して非難はしない。それは、旅先の村人達と議論した「品格とは何か?」という問いに対する彼なりの答えにも表れている。
正義や“正しさ”さえも時代や状況によって変わってしまう相対的なものではあるが、「品格」は変わらぬ価値観の基準だと言うことなのだろう。この作品はある時代のイギリスの物語ではあるけれど、そんな不変的なものをテーマにしていることによって時代を超え、文化の違い(洋の東西)を問わずに読者に響くものがあるのだろう。
アメリカの大統領選挙を見るに、「品格」の欠如には目を覆いたくなるものがある。日本の自民党総裁選や衆議院議員選挙なども同様だが。
初めてイシグロカズオの作品に触れてみたが、ノーベル文学賞を取ったことも納得がいった。他の作品も読み進めていきたいと思う。
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