われら古細菌の末裔

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★あらすじ

1977年、アメリカのカール・ウッズとジョージ・フォックスが3ページの論文を発表した。そこには、様々な“細菌”のリボゾームRNA(rRNA)を解析し、分子系統解析法によって分類した表が載っていた。その表が示していたのは「メタン菌は他の細菌(バクテリア)とも、真核生物とも異なっている」ことだった。1999年、さらなる研究を元に、それまで生物界は原核生物と真核生物の二種類と考えられていたのが、実は三つのドメイン(バクテリア、真核生物、古細菌)からなるとした論文を発表したのだ。

さて、生物はそもそもどのように地球上に現れたのだろうか。二十世紀初頭、ロシアのオパーリンが「生命は無機物から合成され、生まれた」とする説を唱えた。1952年にはスタンリー・ミラーが有名な放電実験を行い、原始大気と想定される組成を持ったガスから、放電によってアミノ酸が生成されたことを発表したのだ。ここに、生命は無機物から生まれ得る可能性が示された。
そして現在では、深海の熱水噴出孔が生命誕生の舞台となったと考えられている。さらに、分子時計による研究から、約30億年前の始生代に遺伝子の種類が爆発的に増えたと言うことが分かってきた。この時代に細菌や古細菌が急激に分岐進化していったと考えられる。

細胞内で遺伝子(DNA)が核膜に覆われている真核生物はどこようにして誕生したのか。真核生物は我々人間や他の動植物が含まれる。つまり、最初の真核生物が分かれば、それが我々人間の遠い遠い先祖だということになる。
これまでのrRNA比較の研究から、生物の種はまず細菌と古細菌に大きく分岐し、古細菌から(!)真核生物が分岐していったと考えられているのだ。

★基本データ&目次

作者二井一禎
発行元共立出版(共立スマートセレクション 38)
発行年2023
副題微生物から見た生物の進化
ISBN9784320009387
  1. すべては3ページの論文から始まった
  2. 初期生命としての微生物
  3. 大気環境を変えた微生物
  4. 真核生物への進化
  5. われら古細菌の末裔
  • 参考文献
  • あとがき
  • 地球を支配する脅威の微生物進化
  • 索引

★ 感想

馴染みの薄い「古細菌」発見の話から本書は話が始まっている。題名にもなっている古細菌だが、本書はそれだけを取り上げているのではない。むしろ、サブタイトルにあるように生命の進化の歴史を語るために、余り知られていないだろう古細菌について基礎知識として説明しなければならなかった訳だ。

ところが、「これが古細菌です」という写真などはほとんど出てこない。どうやら古細菌は、真核生物はもとより、バクテリアとも異なる極端な環境(高温だったり、高圧だったり)に適応したものが多く、実験室で簡単に培養できないのだそうだ。住み処(?)となっている泥や岩石などをがさっと持ってきてまとめて遺伝子を調べて「ここにはこんな遺伝子を持った生物がいる(いた)」と同定するそうで、なかなかその姿を拝めないという訳だ。十年掛けて培養に成功して、やっとその姿を電子顕微鏡で捉えたという話が紹介されていたが、それでは古細菌が馴染みのない存在だというのも仕方ないと再認識した次第。

でも、タイトルの通り、遺伝子の分析結果から見ると真核生物はバクテリアではなく、古細菌から分岐して進化したものなのだそうだ。また、本書では触れられていないが、実は人の腸には好塩性古細菌が住んでいて、皮膚にも別の古細菌が貼り付いているらしい。これは知らない訳にはいかないだろう。
いわゆる“単細胞”の存在だが、四十億年の歴史の中での遺伝子変化は大きく、動物と植物を合わせても全くかなわないほどの広がりを持っている古細菌。いや、自分が知っている世界が如何に狭くて、未知の領域が途方もなく広いということがよくわかった。

本書はそんな古細菌のことも、そして生命の進化、特に真核生物誕生の秘密(?)を解き明かしてくれる(実際は、まだまだ不明なことばかりのようですが)一冊でした。系統図や分類表などを示しながら説明がされているので、素人でも楽しく読み進めることができました。最新の研究成果を知ることができ、とても刺激的。おすすめです。

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