「科学にすがるな!」

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★あらすじ

作者は、友人の死をきっかけに、生や死について考えるようになる。自分が死んだらどうなるのか、その死の恐怖を払拭しようと、科学者に生や死を説いてもらおうと考えた。そして、物理学者の佐藤文隆にその想いを伝えたところ、インタビューを受けてくれることになった。佐藤文隆は宇宙物理学者で、相対性理論や宇宙論が専門。宇宙の誕生やその終焉などから、人の死に関しても一家言あるものと期待していた。

だが、最初のインタビューで佐藤は「自然や自然物がサイエンスで解明されると思うのは間違いだ」と言い出した。作者は面食らう。佐藤は続けて、「実在には三種類あって、外的な実在と、人が頭の中でそうだと認識した実在、そして、人間が社会的に受け継いできた第三の実在がある。「死」は第三の世界の現象なので、サイエンスでは「死」は分からない」と説いた。

科学に基づく死生観が聞きたかったのに、毎回、話は素粒子論や四つの力、そして量子力学へと進んで行ってしまう。宇宙誕生の前はどうなっていたのか、宇宙終焉の後には何があるのか、なんて辺りから死について語ってもらえるのではと考えていた作者の想いは毎回、打ち砕かれてしまう。

足かけ一年に及ぶインタビュー。そこで得られたものは、語られたことはなんだったのか。

★基本データ&目次

作者佐藤文隆, 艸場よしみ
発行元岩波書店(岩波現代文庫)
発行年2023
副題宇宙と死をめぐる特別授業
ISBN9784006033354
原著9784000052153, 2013
  • プロローグ
  • 第1章 死は科学で解明できるのか?
  • 第2章 宇宙と人間の関係は?
  • 第3章 私たちはどこから来たのか?
  • 第4章 私たちは世界をどう見ているのか?
  • 第5章 死の永遠性は物理の時間で解けるのか?
  • 第6章 宇宙の始まりの解明と科学の役割
  • 第7章 学ぶ意味、生きる意味
  • エピローグ
  • あとがき
  • 現代文庫版あとがき
  • 解説 宇宙と死をめぐる根問 サンキュータツオ

★ 感想

私が大学生の時、学部の授業で佐藤文隆先生の「相対性理論」の授業を受けたことがある。そんな想い出もあって、本書を手に取ってみた。

宇宙はビッグバンで始まって膨張していき、やがて反転して収縮する。と言うことは聞いたことがある。であれば、誰しもが「その前は?その後は?」と疑問に思うだろう。人間の寿命とはタイムスケールが違いすぎるので、生死の話と直結する訳ではないだろう。でも、何かそこに似たものがあるのではないかと感じてしまう。一種の共感呪術のようなものかもしれない。
でも、佐藤文隆はそんな考えを一蹴する。作者との会話が初めはなかなか噛み合わない。だが、インタビューが続くにつれて段々に言わんとするところが見えてくる。文系で科学は全く分からないと言う作者の“体験”を通して、読者も段々と理解していける仕組みになっていた。
原子核と電子、素粒子、そして力学と熱力学の違い、さらには量子力学の確率的存在という、“直感に反する”話へと進む。

実験で検証できないものは科学ではないという考え方には共感した。「数式だけのモデルなんていくらでも作れる」という話が出てくるが、確かにそうかもしれない。でも、実験装置に数百億円、さらにはもっとかかるようになってしまった現在、どうやって科学を進めて行けばいいのか、その辺りをさらに聞いてみたい気になった。

物理学入門のような本はたくさんがあるが、本書はその中で異色ではあるものの、単なる知識だけではない、考え方や本質を語ってくれている一冊だった。おすすめです。

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