★あらすじ
アカネ科の植物「コーヒーノキ」は赤い果実を実らせる。果肉も食べることはできるが、もっぱら利用されるのは種子の部分。種子が「コーヒー豆」と言われるものだ。そして、飲料としての珈琲の原材料はこのコーヒー豆と水(湯)だけだ。コーヒーを知ることは、コーヒー豆を知ることから始まる。
コーヒーができるまでのステップは大きく二つに分かれる。生産国側での作業と、消費国側での作業だ。
生産国ではコーヒーノキを栽培し、果実の形で収穫したコーヒーの実から果肉を取り去り、コーヒー豆を取り出す作業が行われる。乾式精製、湿式精製、半水洗式と、生産地の気候風土にも合わせたいくつかの方法がとられる。そして、乾燥されたコーヒー豆が生産国から出荷・輸出される。
コーヒー豆を輸入した消費国では、コーヒー豆を焙煎し、お湯(または水)で抽出して「コーヒー」として消費する(飲む)訳だ。
おいしさは何で決まるのだろうか。人の味覚は甘味、酸味、苦味、塩味、旨味からなる。辛味や渋味も味を左右する。さらに、これらの濃度や組み合わせによっても味は変わってくる。
美味しさを決めるものは味だけではなく、香りとテクスチャー(食感、口触り)も大きな要素を占める。もちろん、温度や見た目も重要な要素だ。さらには、食べ物・飲み物側だけではなく、どのような環境で食する・飲むのかもおいしさに関係する。場所や、その人の健康状態にも依るだろう。
さて、味を感じる主要な器官は「舌」で、舌の表面にある「味蕾」が持つ「味細胞」が諸々の化学物質に反応することによって人は味を感じる。旨味や苦味、酸味などに反応する味細胞はそれぞれ型が異なっていて、濃度や温度によっても反応が変わる。そのために複雑な味を感じることができるのだ。
コーヒーがどのような化学成分を持っているかを分析すれば、どのような味になるのか、つまりは「おいしい」かどうかが分かる。だが、残念ながら研究はあまり進んでいない。しかも、単に化学成分が同じでも、それらが舌の上にどれだけ残留するかで「コーヒーのキレ」や「コク」の違いにもなるので、複雑さはさらに増している。
★基本データ&目次
作者 | 旦部幸博 |
発行元 | 講談社(ブルーバックス) |
発行年 | 2016 |
副題 | 「おいしさ」はどこで生まれるのか |
ISBN | 9784062579568 |
- はじめに
- 第一章 コーヒーって何だろう?
- 第二章 コーヒーノキとコーヒー豆
- 第三章 コーヒーの歴史
- 第四章 コーヒーの「おいしさ」
- 第五章 おいしさを生み出すコーヒーの成分
- 第六章 焙煎の科学
- 第七章 コーヒーの抽出
- 第八章 コーヒーと健康
- おわりに
★ 感想
以前、レビューを書いた「珈琲の世界史」の著者による一冊。こちら(「コーヒーの科学」)の方が先に書かれています。
歴史を語る時には「珈琲」と漢字表記していますが、科学の対象として語っている本書では「コーヒー」とカタカナ書き。バラやサクラと、植物の種を表す時にはカタカナ書きが普通ですから、正しい姿勢です。
それにしても、これだけ歴史のある飲み物なのに、科学の対象としては意外なほどに研究されていないんですね。その理由はあまり語られていませんが、想像するに、美味しさの謎を解明したとしても、それが爆発的な売上増に繋がるかというとそうでもなさそうということなのかな。他の食品・飲料に関しての状況を知らないですが、これが製薬の研究ならば違うのでしょう。食品の場合は安全性や生産性にまつわることは研究対象になっても、味そのものはボチボチなのかも知れません。
と、そんな中で著者は丁寧に科学的文献を当たり、さらには生産者や焙煎家、コーヒー通(?)からの情報も収集して本書を書いています。本職が科学者(専門は微生物学、遺伝学)であり、もちろんコーヒー好きでもある訳ですが、植物の種としてのコーヒーの分類から、焙煎における化学的変化、抽出時に溶け出す物質の性質まで体系的に論じているんですから恐れ入ります。そして、副題にあるように「おいしさ」が何によって決まるのか、その秘密に近づいていっています。
「美味しいコーヒーを飲みたい」は誰しも思うことでしょうが、それにはかなり深く深く追求していかないと行けないようです。著者のように「珈琲道」を極めるのは厳しそうですが、少なくとも豆を挽くときの力加減や、お湯の温度には気を使おうと思った次第。
と言いつつ、自分で淹れたものではなく、タリーズでコーヒーを飲みながらこのレビューを書いていますが。。。
コーヒー好きにはもちろんですが、食品一般にも通じる話も多いので、そちらに興味のある方にもおすすめの一冊です。美味しいコーヒーを飲みながら読んでくださいな。
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