★あらすじ
著者は自身のことを「講演家」とは呼ばず、「フリーランスの思想家」としている。自分の考えを伝え、話すために、日々、飛行機でアメリカ中を飛び回っている。そんな著者が、講演をすることに対しての経験談や考え方を示しているのが本書だ。
南北戦争前の十九世紀初頭にはインターネットはもちろん、映画やテレビなどの娯楽もなかった。そんな中、教会の聖歌隊の合唱や、本の朗読などが流行し、講演会もその一つだった。そして「講演家」という職業が確立する。
講演会場は立派な(講演がやり易い)場所なのは稀で、音響の悪い会議室だったり、公演中に目障りで気が散ってしょうがない(無駄に華美な)シャンデリアのある部屋だったり。講演家が会場を選べる場合はほとんどない。理想的にはギリシアの野外円形劇場が理想的なのだが、そんな訳にはいかない。だから、できることをするのだ。
会場の広さに対して聴衆が少ない場合、バラバラに座っているようだったら前の方の席に移動してもらおう。会場(の広さ)は変えられないが、密集した聴衆に対して語りかけることができれば、熱量は上がっていく。
聴衆は(ある程度の)興味があるから講演を聴きに来る。その「信頼」を失ってはいけない。そのため講演者は「なぜ聴衆がそこにいるのか。何を期待して集まったのか」を考えねばならない。「具体的な論点を簡潔に表現する」ことは重要だ。何を言いたいのか分からなくなり、聴衆を迷子にしてはいけない。
最近は、アウトラインは柔軟性に欠けるとして、より自由なマインドマップやストーリーボードを利用する人もいるが、著者は「アウトラインを造ることは重要」であると主張する。話を分かり易くすることはもちろん、アウトラインさえメモしておけば、もし途中がパソコンが壊れてスライドを映すことができなくなっても(メモを見ながら)何とか話を続けることができるのだから。
★基本データ&目次
作者 | Scott Berkun |
発行元 | オライリージャパン |
発行年 | 2010 |
副題 | 効果的な講演、プレゼンテーション、講義への心構えと話し方 |
ISBN | 9784873114736 |
原著 | Confessions of a Public Speaker |
訳者 | 酒匂 寛 |
- 推薦の言葉
- 1 聴衆が裸だとは思えない
- 2 ちょうちょの来襲
- 3 時給3万ドル
- 4 厳しい会場や聴衆と向かい合う
- 5 マイクを食うべからず
- あまり見られることのない写真集
- 6 人を退屈させない科学
- 7 15分の名声から学んだこと
- 8 人が言うこと
- 9 クラッチは友達さ
- 10 そして告白を
- バックステージノート
- プロの小さな工夫
- 主張の伝え方
- もし話が面白くなければどうするか
- うまく行かないときの対処法
- これ以上ひどい目には遭えないでしょう
- さらなる研究のための参考情報
- ご協力のお願い
- 謝辞
- 写真のクレジット
- 訳者あとがき
- 索引
- 著者・訳者紹介
★ 感想
「講演家」という職業がある・ちゃんと収入を得て暮らしを立てていける、ということにまずは驚き。有名人や本を出版した人などがする「講演」は馴染みがあるし、企業向け研修やイベントのための「講師」も然り。私も後者ならば経験がある。
しかし、「講演家」は特定の企業などに属さず(その会社の宣伝マンではなく)、色々な話題を題材に話をして講演料をもらっているのだそうだ。さすがはアメリカ。こういう職業も成り立つんですね。
本書はそんな有名講演家による、講演のための心得・虎の巻といったところ。PowerPointの使い方・資料の作り方や文章の組み立て方などの、いわゆるHowToものとは一線を画している。自分の体験談を中心に、反面教師の教えとばかりに失敗談を語っていく感じだ。
米国にあっては、講演家を目指す人たちに向けた一冊なのだろうが、日本の我々にとってはもっと一般的に「人前で話をする」時のための心得と思えば良いのだろう。私が中でも「これは実践せねば」と思ったのは、「きちんとリハーサル・練習をしろ」という教え。当たり前のようだが、やらないんですよね、これが。お客さんにプレゼンする時はまだしも、内輪のミーティングだとまずやらない。で、持ち時間が十分のはずなのに時間オーバーしてしまうことが多々ある。そして、会議をダラダラと時間超過させてしまう訳です。いかんですね。資料を作ったら、説明にどれくらい時間がかかるかだけでもチェックしようと思ったのでありました。
さすがに「最前列を埋めてもらうためにプレゼントを用意しろ」なんてのは一般の我々には関係ないアドバイスかも知れないけど、そんなのを抜きにしても色々と役に立つ・覚えておこう・実践しようと思えるものが一杯。
今、在庫限りって感じのようですが、電子書籍化して欲しいな。
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