NetGalleyを利用して読みました。
★あらすじ
大阪の下町に暮らす道(みち)と羽衣子(ういこ)の兄妹は、祖父が営んでいたガラス工房と店を引き継ぐことになった。
兄の道には “苦手” なものが多い。複数の人と一辺に会話すること、騒がしい音、服に付いているタグ、人工甘味料、そしていつもと違う出来事。母は診断を受けさせなかったが、道は発達障害なのかも知れない。
それが原因か、他に何かあったのかは分からないが、兄妹たちの両親は不仲が続き、父は家を出てしまう。母は料理家として名を上げていて、生活に困窮することはなかったものの、東京へ出張して家を空けがちだった。
道は独特の感性を活かしてオリジナルのガラス細工を創作していく。それに比して自分を “凡人” と思っている羽衣子は妬ましく思っていた。そのため、何かとぶつかることが多かった。道がガラスの骨壺を作り、販売を始めたことも羽衣子は気に入らない。道が「骨壺あります」の看板を店先に出すたびに取り外して捨ててしまうほどだ。
だが、道の骨壺を求めて客が来るようになる。普通ではない骨壺を求める客たちは、それぞれに事情を抱え、秘めた想いを持って兄妹の店を訪ねてくるのだった。道は一人一人に向き合い、その想いを汲み取って作品を造っていく。初めは接客すらも嫌がっていた羽衣子もだんだんと客たちとかかわっていくようになり、二人の関係にも変化が出てくるのだった。
★基本データ&目次
作者 | 寺地 はるな |
発行元 | PHP研究所 |
発行年 | 2021 |
ISBN | 9784569850122 |
- 序章 羽根
- 第一章 骨
- 第二章 海
- 第三章 舟
- 終章 道
★ 感想
久しぶりに普通の小説を読んでみた。しかもハートウォーミングな話。普段は全く手にしないジャンルなのだが、NetGalleyで見かけた時になぜか惹かれて読んでみたのでした。
「本当は間違っている心理学の話」を読んだばかりだったので、最初は「発達障害 “だから” 異才を持っている」というキャラクター設定にちょっと違和感を覚えてしまった。でも、読み進めるうちに ”だから” ではなく、主人公の個性なのだと納得。兄妹の衝突や葛藤を際立たせるには自然な設定だったのだろう。
道と羽衣子と、それぞれの視点で語りが進んで行く。セクションごとに語り手が変わっていくというのも、互いの考え方のすれ違いと、それでいて想いは一緒であり、徐々に距離が縮まっていく感じが分かり易く、話にすんなりと引き込まれていった。
自分にないものを持っている人に対する羨ましさや妬みの感情は、よっぽどの自信家でもなければ誰もが感じたことのあるものだろう。兄弟姉妹に対しては特にそうなのかもしれない。最も近い存在だからこそのライバル心は普遍的だ。
だが、その葛藤の中から、どのように互いを理解し、受容できるようになるのかの道筋は一つではない。時が解決する場合もあるだろし、この話のように衝突の末にというパターンもあるだろう。もどかしさを感じつつも、先を読み進めていってしまった。
ひねくれた結末の作品が多い中、素直なエンディングにほっとした。COVID-19のせいで閉塞感漂う昨今だからこそ、ゆったりした気持ちにしてくれた本作に感謝。
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