★あらすじ
通俗心理学の多くは人間の特性について誤解を生むだけではなく、間違った判断を招く。本書は現代通俗心理学を、科学的な証拠を通して精査した最初の書籍である。
- 人は自分の脳を10%しか使っていない。
- 性的に虐待された子どもは、大人になったら虐待する側になる。
- 満月の時、人は奇妙な振る舞いをする。
これらはすべて嘘である。
人はハズレよりもアタリである事象だけを記憶に留める。アタリだけが目立って見えてしまうのだ。これは選択的知覚・選択的記憶と呼ばれている。科学的には、「満月の日の出来事」と「満月ではない日の出来事」すべてを比べて判断しなければならない。実際に関係のない二つの事象に関連性を感じてしまうことを錯誤相関と呼んでいるが、事件・事故の発生率を調べても、特に満月だから多いと言うことはないのだ。
(「満月の日には引力が…」との話があるが、であれば新月の日も同様の影響があるはずだが…)
また、二つの事象が同時に起きると統計的に結論づけられたとしても、それらの事象に因果関係があるとは限らない。実際には三番目の事象が二つの原因になっている場合だ。子供の頃に虐待された人は大人になってから自分が虐待する側に回る、とされる話も、事象が起きる前後関係から
- 原因:子供の頃に受けた虐待
- 結果:大人になってから虐待する側になる
と思ってしまうが、「攻撃的傾向は遺伝的要因がる」という研究結果がある。つまりは、親の「攻撃的傾向を持つ遺伝子」を子どもが受け継いだ訳だ。
★基本データ&目次
作者 | Scott O. Lilienfeld, Steven Jay Lynn, John Ruscio, Barry L. Beyerstein |
発行元 | 化学同人 |
発行年 | 2014 |
副題 | 50の俗説の正体を暴く |
ISBN | 9784759814996 |
原著 | 50 Great Myths of Popular Psychology: Shattering Widespread Misconceptions about Human Behavior |
訳者 | 八田 武志 (監修), 戸田山 和久 (監修), 唐沢 穣 (監修) |
- はしがき
- 序章 心理学神話の世界
- 第1章 脳が秘めた力――脳と知覚をめぐる神話
- 第2章 人が死ぬまでに経験すること――発達と加齢をめぐる神話
- 第3章 過去の出来事の思い出――記憶をめぐる神話
- 第4章 学習効果の高め方――知能と学習をめぐる神話
- 第5章 こころの奥をのぞき込む――意識をめぐる神話
- 第6章 気の持ちようで変わること――感情と動機をめぐる神話
- 神話23 噓発見器は確実に噓を見破る
- 第7章 他者との良好な関係を築くために――対人行動をめぐる神話
- 第8章 自分の内面に目を向ける――パーソナリティをめぐる神話
- 第9章 こころの病気への対処――精神疾患をめぐる神話
- 第10章 犯罪者の取り違え――心理学と法律をめぐる神話
- 第11章 こころの問題を解決する――心理療法をめぐる神話
- あとがき――真実は小説より奇なり
- 訳者あとがき
- 索引
- 付録➀ 検討すべきその他の神話
- 付録② 関連する推薦資料
- 付録③ 心理学神話を探求するうえで役立つウェブサイト
- 参考文献
★ 感想
「嘘も百回言えば本当になる」とは誰かの言葉だったか。いわゆる “俗説” はまさにこれなんですね。ソーシャルネットワークの時代、フェークニュース・嘘が繰り返し流され、少なくない人たちがそれらを信じてまた拡散する。マスコミでも、普通に嘘がまかり通っている。血液型占いなどはその典型。
でも、そんな間違った俗説は思っていた以上に多かった。そして自分自身もかなり間違っていた・嘘を信じていた、と本書を読んでショックを受けました。もちろん、本書に書かれている事自体も、科学のさらなる探求によってまた覆されるかもしれませんが、それはそれとして、似非科学に騙されないようにするのは難しいものだなと改めて思ったのでした。
本書の良いところは、とにかく参考文献が多いこと。巻末には七十ページ近くに渡ってリストが載っています。少数の特異な例だけに囚われることがないように、という本書でも語られていることを実践している形だ。非常に労力を要する作業だと思うけど、サイエンスライターの正しい姿勢なのでしょう。
ロールシャッハテストや夢判断(夢占い)に根拠がないのは知っていたが、「自閉症==サヴァン症候群の天才・異才」や「犯人を自白に追い込んで一件落着」、「嘘発見器で犯人の嘘を見抜く」などが嘘(正確には間違っている場合が多い、と言うべきか)というのは、ミステリーや刑事モノのドラマが好きな私にとってはかなりガッカリ。他にも、ドラマや小説のネタになっている話や “常識” が間違いだらけだったというのも一杯だった。
まあ、「暴れん坊将軍」や「水戸黄門」のように、フィクションと分かっても楽しめる作品もあるから、そういうものだと思って観れば良いのかな。
騙されないため、間違った判断をしないためにも、必読の一冊でしょう。
コメント
[…] 「本当は間違っている心理学の話」を読んだばかりだったので、最初は「発達障害 “だから” 異才を持っている」というキャラクター設定にちょっと違和感を覚えてしまった。でも、読み進めるうちに ”だから” ではなく、主人公の個性なのだと納得。兄妹の衝突や葛藤を際立たせるには自然な設定だったのだろう。道と羽衣子と、それぞれの視点で語りが進んで行く。セクションごとに語り手が変わっていくというのも、互いの考え方のすれ違いと、それでいて想いは一緒であり、徐々に距離が縮まっていく感じが分かり易く、話にすんなりと引き込まれていった。 […]