古代都市ローマの殺人

記事内にアフィリエイト広告が含まれています。

★あらすじ

舞台は紀元前70年の古代ローマ。グナエウス・ポンペイウスとマルクス・リキニウス・クラッススが執政官の年だ。共和制ローマでは、年ごとに任命される二人の執政官の名前を挙げることで何年であることを表した(十干十二支のような感じ)。主人公は、二十六人官のうちの司法三人官(犯罪者の逮捕や裁判、刑の執行や財産の没収など、警察・司法を担当)を拝命したばかりの若き平民貴族のデキウス・カエキリウス・メテッルスだ。

当時のローマは、スッラとマリウスの争いによる内乱やスパルタクスの反乱が収まったばかりで、治安は悪化し、日々、殺人事件が起きているような状態だった。そしてその日もデキウスの管轄する地域で殺人が起きた。被害者は元剣闘士で今は解放奴隷となっている男だ。その男は弓の弦で首を絞められて殺されたようだ。現役を退いたとは言え、剣闘士だった男を絞殺した犯人はかなりの強者ではないだろうか。
だが、事件はそれだけではなかった。川沿いの倉庫で放火事件があり、そこの持ち主である男も自宅で刺殺体となって見つかったのだ。この男はアンティオキア出身のアシア系ギリシア人で、ワイン輸入商なのだが、ローマと対峙しているミトリダテス王とも繋がりがあったというのだ。消防技術のほとんどない古代ローマでは、甚大な被害を出す可能性のある放火は重罪であった。また、殺された男が敵対する他国と繋がっていたとなるとさらに話は大きくなる。
そして、この時はこれら二件の殺人に関連があるとは全く分からなかった。

ローマの栄光を信じ、ローマを守る強い正義感を持ったデキウスは、早速、捜査を始める。剣闘士場で医者をやっているアスクレピアデスを訪ね、被害者の傷を見てもらおうと思ったのだ。剣闘士たちはあらゆる武器を使って死闘を繰り広げる。当然、彼らを手当てする医者はどんな武器がどのような傷口を残すのか熟知しているのだ。

初めは無関係に思われた事件だったが、デキウスは徐々にその繋がりに気づいていく。だが、捜査を進めていくと、そこにはローマ全体に関わる大きな陰謀が見え隠れし始め、否応なしに彼もまたその中に巻き込まれていくのだった。

★基本データ&目次

作者John Maddox Roberts
発行元早川書房 (ミステリアス・プレス文庫) 
発行年1994
副題SPQR
ISBN9784151000782
原著SPQR I: The Kings Gambit: A Mystery (The SPQR Roman Mysteries Book 1) 
訳者加地美知子

★ 感想

古代ローマを舞台にした殺人事件のミステリー。時代(古さ)は全く違うが、日本で言えば銭形平次のような時代劇に当たるのだろうか。舞台となっている紀元前70年は、日本では邪馬台国もまだ登場しなかっただろう頃の話で、中国だと漢(前漢)の時代に当たる。

話は事件捜査を軸に展開されるのだが、当時のローマの様子、市民の暮らしぶりから政治情勢までも折に触れて“紹介”されている。
例えば、毎朝、自分の“庇護者”に朝の挨拶に伺うという習慣があったそうだが、主人公のところにも被・庇護者たちがやってくる。そして彼らを引き連れて主人公は、自分自身の庇護者である父親を訪ねるのだ。なんともご苦労な話だが、それによって連帯は強まり、また口コミによるニュースも相互に交わされるので、TVや新聞、もしくは回覧板の代わりになっていたのかも知れない。
また、なにか吉兆や不吉な事が起きると、「その日は公務は休み」と宣言されるのだそうだ。いきなりお役所仕事、そして主人公の“警察業務”(もちろん、事件捜査も含む)まで休みになってしまう。七つの曜日はローマ歴にも存在したが、土日週休二日制という訳ではなかっただろうから、こういう不定期の休みが必要だったのかも知れない。

歴史的な有名人たちも数多く登場する。ポンペイウスとクラッススを筆頭に、若き日のユリウス・カエサルやキケロも主人公と交流があったという設定で重要な役割を持って現れる。歴史好きにはニヤニヤしてしまう話ばかりだ。

ところで、原題でもあるSPQR(Senatus Populusque Romanus)は「元老院とローマの市民」の意味で、ローマの人々全員のこと。以前、「碑文から見た古代ローマ生活誌」という本を読んだことがあるが、この“SPQR”は碑文に刻まれる決まり文句としてお馴染みだったようだ。

さて、肝心のミステリーとしての出来映えだが、犯人を暴き出すための謎の数々や、意外な犯行手口、そして複雑な人間関係に、主人公の恋物語も絡んで、なかなか良くできた話だった。そして、結末は続編を予想させる感じに。実際、続編が十三巻まで刊行されているそうで、人気シリーズになっているのが分かる。
古代ローマの雰囲気に浸りながらミステリーの世界に入っていく。テーマパークのような楽しさのある一冊だった。

★ ここで買えます

原書はこちら。

関連図書。

コメント