秘密の動物誌

記事内にアフィリエイト広告が含まれています。

★あらすじ

ジャーナリストである私たちは、クライアントからの依頼を受けてスコットランドのある地方のルポルタージュをするため、彼の地を訪れた。長期におよぶため、取材の拠点としてホテルではなく、一軒屋を借りることにした。その家は数十年に渡って空き家になってはいたものの、手入れはされていて済むには充分だった。だが、その家で我々は発見してしまったのだ。それは、かつての家主であったアーマイゼンハウフェン博士が残した“秘密の研究成果・収集資料”だった。

ポレノグリファ・ポリポディーダはインド南部で発見された。野生の姿や、捕捉時の様子が写真に残されている。また、X線写真による骨格の確認が為され、さらには鳴き声のソノグラムまである。
その姿はヘビのようではあるが、六対の脚を持つ。性格は獰猛で、獲物を捕捉すると消化液の一部を吐き付ける。その際に「グロブ・ト」という鳴き声を上げるのだ。

ペロスムス・プセウドスケルスはボヘミアで発見され、捕獲された。捕獲時に即死してしまったため、すぐに解剖が為された。だが、残念ながら標本や解剖の様子を示す資料は残されていない。捕獲時の写真とスケッチが残されているのみである。兎のような大きな耳が特徴で、牙が生えている。観察により、大型昆虫、特にカマキリを好んで食することが発見された。牙で昆虫の外骨格を食い破り、吸盤が備わった舌で昆虫の体液を吸い取るのだ。

フェリス・ペンナトゥスは、モロッコの険しい山岳地帯で発見された。と言っても、人の近寄ることが困難な絶壁で生息しているため、発見したのは白骨のみだ。調査の結果、有翼の猫型哺乳類であることが分かった。また、歯から判断して食性は肉食である。だが、それ以上のことは何もわからず、この動物の分類はできていない。

★基本データ&目次

作者Joan Fontcuberta , Pere Formiguera
発行元筑摩書房(ちくま学芸文庫)
発行年2007
ISBN9784480091161
原著FAUNA
訳者荒俣宏
  • 日本語版への序:秘密の動物たちとの遭遇
  • Ⅰ. ペーター・アーマイゼンハウフェン博士の生涯
  • Ⅱ. 新種・奇種の動物たち
  • Ⅲ. 解説
  • 日本語版解説:荒俣宏
  • 文庫版解説:茂木健一郎

★ 感想

架空の動物を、図鑑か科学書のような体裁で描いた作品としては「鼻行類」が有名だが、こちらはもっと手がこんでいた。動物たちの剥製や骨格標本を作り、野生の姿を撮った写真(ちょっとボケていたり、遠景で分かりにくかったり・・・)を用意し、さらには鳴き声までも録音して、そのソノグラム(スペクトログラム)まで作成されている。しかも、全ての動物たちにそれらを示すのではなく、あるものは「野生の姿を写真で撮ったが逃げられた」だの、「標本がなく、解剖図だけが残された」などと、“強弱をつけた”取り扱いがされていて、いかにも本物らしくしている。
さらにすごいのは、これらの“資料”を展示した展覧会(研究報告会?)まで開いてしまったのだとか。いやぁ、やりきってますね、全く。

雪男やツチノコなどのUMA(未確認動物:Cryptid)の目撃談や“証拠”写真は巷に溢れている。これらをロマンと見るのか、パロディなのか、現代科学批判(科学は絶対ではない。知らない世界はまだまだある・・・)とするのか、それとも妄信なのか、どの立場にあるかによって本書の評価も異なるだろう。
私は、H.P.Lovecraftの作品群のような、新たな世界の創造、未知のものへの好奇心の表れなんじゃないかなと思えました。太古にはアノマロカリスのような“変な生物”が実在した訳だし、伝説の怪物クラーケンを彷彿させるようなダイオウイカなんてのも海の底には泳いでいるんだし、まだまだ知らない動物がいても不思議はないし、そんな新種の生物を見つけられたら興奮するし、楽しいだろうなと思える。また、子供のころに初めて訪れた科学博物館で動物たちの剥製や骨格標本を見たときのわくわく感をもう一度感じてみたいという淡いノスタルジーを刺激してくれもした。

どの視点で見るのかは人によってそれぞれだろうが、“それっぽさ”はかなりなもの。一読に値する。

★ ここで買えます

コメント