サイコパスの真実

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★あらすじ

「サイコパスは凶悪な連続殺人鬼である」、「サイコパスは知能が高く、めったに存在しない」、「サイコパスは悲惨な家庭で育ったものが多い」などは全て”神話”であって、真実ではない。犯罪心理学の研究結果、データからは、

  • サイコパスの中で凶悪犯罪者であるものはごく少数。
  • サイコパスはごく身近な存在で、人口の一パーセントから数パーセントいると見積もられている(学校のクラスにも、会社にも,何人もサイコパスがいる)。
  • ほとんどのサイコパスの知能は平均程度。他の一般の人と同じ。
  • サイコパスになる要因は家庭環境ではなく、遺伝的要素が強い(脳の障害による)。
  • サイコパスに対する有効な治療法はない。心を込めて接しても、彼らは変わらない(矯正できない)。

と言うことが分かってきた。

サイコパスであるかを診断するための「サイコパス・チェックリスト」が開発されている。このリストではサイコパスの特徴を大きく四つの因子に分類している。それは

  • 対人因子:表面的な魅力、他者操作性、虚言癖、誇大化した自尊心
  • 感情因子:良心の欠如、共感性や罪悪感の欠如(善悪の区別は付くが、罪悪感を抱くことがない)、冷淡さ、不安・恐怖心の欠如
  • 生活様式因子:現実的・長期的目標の欠如(刹那的な生き方)、衝動性、無責任性
  • 反社会性因子:少年期の非行、犯罪の多種方向性、再犯率の高さ

だ。
これらの一部が当てはまるだけのサイコパスもあり得る。また、犯罪にならなくても、やたらと部下を罵ったりするパワハラ上司や、平気で仕事をさぼったり、職をすぐに変えてしまう(長続きしない)ワーカーもサイコパスである可能性がある。それらは”マイルド・サイコパス“と呼ばれる。
恐怖心を持たず、常に挑戦的かつ冷静な判断を下すという傾向は、成功した企業家や政治家にも見られる。カリスマと呼ばれる彼らたちの中で、一方で自分の成功のために手段を選ばない(犯罪すれすれのこともやってのける)人、やたらと尊大で気性が激しい人はサイコパスである可能性が高い。そんな彼らはとても魅力的だったり、人を扱うのに長けていたりするのだ。彼らは”成功したサイコパス“と呼ばれる。

PeTスキャン、fMRI、SPECT(単光子放射形コンピュータ断層撮影法)などによる脳の構造・機能の診断を使った研究によると、サイコパスの脳、特に前頭前皮質、側頭皮質、大脳辺縁系(扁桃体、海馬)、脳梁に異常が見られることが分かってきた。特に、感情をコントロールすると言われる扁桃体の異常が顕著だ。
もちろん、後天的(生育環境)要因もあり、互いに影響し合っている。だが、影響の割合は生物的要因(遺伝的脳障害)が大きい。そのため、有効な治療法は確立されていない。

となると、「サイコパスに責任能力はあるのか?」、「ハイリスクなサイコパスにどう対処するのか?」が未解決の問題として残る。脳の診断によってサイコパスであると分かった人を、犯罪を犯す前に拘禁することは是か非か。議論すべき問題だ。

★基本データ&目次

作者原田隆之
発行元筑摩書房(ちくま新書)
発行年2018
ISBN9784480071378
  • はじめに 隣りのサイコパス
  • 第1章 私が出会ったサイコパス
  • 第2章 サイコパスとはどのような人々か―サイコパスの特徴
  • 第3章 マイルド・サイコパス―サイコパスのスペクトラム
  • 第4章 人はなぜサイコパスになるのか―サイコパスの原因
  • 第5章 サイコパスは治るのか―サイコパスの予防、治療、対処
  • 第6章 サイコパスとわれわれの社会―解決されないいくつかの問題
  • おわりに サイコパスはなぜ存在するのか
  • 謝辞
  • 参考文献

★ 感想

正直、「サイコパス」という言葉に惹かれ、興味本位で読んだのだが、想像以上に怖い話だった。怖いというか、不安にさせると言う方が適切だろう。サイコパス==凶悪犯罪者(猟奇的殺人者)だったらまだ良かったが、実はどこにでもいる存在で、しかも治療法がない(その”性格”は変わらない)のだから怖いとしか言いようがない。会社の中で一目置かれるカリスマ社員がサイコパスだったら、”腹を割って理解し合う”ことはできず、自分は利用されるだけかも知れないというのだから。

題名の通り、サイコパスという概念・言葉の定義の誤解を解き、実際のところがどうなのかを事細かに説明してくれている。所々、推測や個人的な意見もありそうだが、説明の組立は論理的で説得力がある。このようなナーバスな話題だけに、その点は筆者も注意しているようだ。「サイコパスというレッテル貼り」や、さらにエスカレートした差別に繋がってはならないと言うことだろう。
だが、筆者も言う通り、サイコパスになる要因は”育ち”ではなく”氏”(生まれ、詰まりは遺伝的要因)が強いというのが科学的事実(科学的に検証された結論)とのこと。そして、サイコパスは治療できない(とても困難)だという事実も示されている。そのため、第6章は答えのない問いの提示に終わっている。我々一人一人が考えねばならない問題だと言うことだ。

サイコパスが先天的なものだった場合、その”対処”としてどうしても出てくるのが「優生学・優生思想」的な考え方だ。過去の歴史を振り返るまでもなく、人権侵害や人種差別、そして大量虐殺の要因ともなったものだ。できれば議論することさえも避けたい話題だと思う。
サイコパスによる犯罪は恐ろしいし、なくしたい。いや、そこまでいかなくても、パワハラを繰り返す人が社会的地位を得ることも止めさせたい。だが、そのために脳の診断で人を選別し、拘禁や隔離、もしくは課長・部長に昇進させないということが許されるのだろうか。

脳科学・医学の進歩に伴って、このような問題はどんどん出てきそうだ。議論は避けて通れない。その第一歩として考えるべき、そして読むべき一冊だ。

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