NetGalleyを利用して読みました。
★あらすじ
50年のうちに宇宙エレベーターができるとか、近いうちに脳の中身をクラウドにアップロードできるようになるとか、3Dプリンタで腎臓や萱草を作ることができるようになると言われている。だが、よくよく調べると、本書で述べるようにどれ一つとっても予想の期間内に実現できるとは思えないのだ。予算や安全性、それに政治的な問題などが未来予測には欠けていることが多そうだ。
いつになったら宇宙旅行に行けるのか。現時点で450g(1ポンド)のものを宇宙へ送るには約一万ドルかかる。チーズバーガー一個で2500ドルだ。ロケットの重量は、80%が推進剤(燃料+酸化剤)、16%がロケット本体、残りの4%が荷物なのだ。ただ、費用で観ると推進剤はそれほど高くなく、使い捨てされるロケット本体がやはり高額なのだ。
再利用可能なロケットを作るか、推進剤を減らす工夫が必要になる。前者としてはスペースXで開発中のファルコン9なら30%コストを下げられる見込みだ(でも、30%)。後者の工夫は、ターボファンを超えるラムジェット、スクラムジェットエンジンの開発へと進まないといけないが道は遠い。
宇宙エレベーターという考え方もある。カーボンナノチューブを使えばできそうだが、現時点で生成できたカーボンナノチューブの最長記録は50cmだ。また、カーボンナノチューブは電気に弱い。落雷に遭うとすぐに切断してしまうだろう。その場合、大量のケーブルが宇宙から降ってくることになる。どのような惨事になるかは予想も付かない。
残念ながら安価に宇宙へいける日はまだまだ遠い。
★基本データ&目次
作者 | Kelly Weinersmith, Zach Weinersmith |
発行元 | 化学同人 |
発行年 | 2020 |
副題 | 気になる最先端テクノロジー10のゆくえ |
ISBN | 9784759820355 |
原著 | Soonish: Ten Emerging Technologies That’ll Improve and/or Ruin Everything |
訳者 | 中川泉 |
- 序――もうすぐかも.「かも」を強調
- 第1部 「宇宙」のもうすぐかも!?
- 宇宙への安価なアクセス方法――最後のフロンティアは,めちゃくちゃお金がかかるものである
- 小惑星探査――太陽系の廃品置き場あさり
- 第2部 「モノ」のもうすぐかも!?
- 核融合エネルギー――それが太陽を動かしているわけで,結構なことだけど,それでうちのトースターは動かせるの?
- プログラム可能な素材――あなたのモノが,どんなモノにでもなるとしたら?
- ロボットによる建設――金属の使用人よ,私のために娯楽室をつくるのだ!
- 拡張現実――現実を修正するもうひとつの方法
- 合成生物学――フランケンシュタインのようなモンスターは本書製作中ずっと,忠実に薬をつくったり入力作業を行ったりしています
- 第3部 「人体」のもうすぐかも!?
- プレシジョン・メディシン――あなたに関して特におかしなところ全部~統計的手法
- バイオプリンティング――新しい肝臓ならすぐに印刷できるのに,どうしてマルガリータ七杯でやめるんだ?
- 脳コンピューターインターフェース――四十億年にわたって進化してきたのに,鍵を置いた場所をいまだに思い出せないので
- 結論――もうすぐではないかもしれないもの,別名「失われた章の墓場」
★ 感想
未来予測がことごとくに打ち砕かれていく。しかも、アメリカンジョークがあちこちで炸裂している、軽いノリの文章で書かれているとOoo La Laという気持ちになってしまう。いやぁ、どれもこれも、やっぱり実現にはほど遠いんですねぇ。
カーボンナノチューブが電気に弱いとは知りませんでした。落雷もそうだろうし、そもそもが空気(風)との摩擦でかなり静電気が帯電しそう。何せ丈夫なケーブルでしょうから、そんなのが落ちてきて絡まったら確かに大変そう。飛行機やら電車やら自動車やらに絡まったら大事故ですね。その安全性をクリアするのは。。。うむ、すぐには思いつかないほどの難問です。Ooo La La…
合成生物の話は、結局は難しいという結論だが、それでも「ここまでできているんだ!」と驚いた。改良したバクテリアを飲み込んで、消化器系内でそこらのDNAを取り込ませ、体外に排出された後に調べると、腸内環境や病気の有無が分かるというもの。マイクロロボットを体内に送り込む話は聞いたことがあったが、プログラミングされたバクテリアの話は初耳。今は研究段階だそうだが、これが実現できれば、苦しい思いをして胃カメラを飲む必要もなくなるでしょう。宇宙エレベーターよりも、まずはこっちを頑張って欲しいな。
どれもこれも興味深い話ばっかりでした。クスッとしながら楽しめ、そして勉強になりました。
それにしても、こういう感じの”サイエンス・ライター”は日本には少ないのが残念だな。内容は科学として正しい、ちゃんとしたものだけど、それを誰にでも分かり易くかみ砕いて、しかも(ちょっとウザったいほどに?)面白く語ってくれる、そんなライターのことだ。講談社ブルーバックスのシリーズや、岩波科学ライブラリーなどは科学の話を分かり易く語ってくれてはいるが、”ユーモア”の点でまだまだ(いや、路線が違う?)だ。
特に本書は、最先端の話をきちんと取材して伝えようとしているし、その限界・問題点までも指摘してくれている。しかも、面白おかしく。科学リテラシーを向上させるためには必要でしょう、こういうライターさん。
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