オリジン・ストーリー

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★あらすじ

この世界はどのようにして出来上がったのか。そして自分はどのようにしてここに存在しているのか。多くの宗教はそれぞれの“オリジン・ストーリー”を持っている。それらは世界を一つに結びつける考え方でもある。
ところが、現代普通教育はそんなオリジン・ストーリーを欠いている。学問領域は細分化され、全体を貫く思想がないのだ。だが、現代版オリジン・ストーリーは徐々にだがその姿を明らかにしている。それは伝統的なオリジン・ストーリーとは全く異なり、現代科学のグローバルな伝統の上に築かれている。それは、この宇宙の始まりに端を発する。いや、そもそも宇宙に“始まり”があるかどうかも分かってはいない。そのため、今は始まりがあったとしてオリジン・ストーリーは語られる。その世界はさまざまな物が徐々に複雑さを増していった。そして、ある臨界に達すると重要な変わり目が訪れる。この世界はそんな臨界が何度も訪れ、次第に複雑さを増していったのだ。

最初の臨界(臨界1)は宇宙の起動の瞬間だ。「ビッグバン」と呼ばれるその直後の数秒から数分の間に多くのことが起こった。最初の“構造”、“パターン”が生じたのだ。その時の宇宙は無形のエネルギーから成っていた。そして、温度が下がるうちに相転移が生じ、エネルギーは四つの種類に分かれた。それは「重力」「電磁気力」「強い核力」「弱い核力」だ。そして、ビッグバンの一秒後には最初の物質が出現した。熱力学第二法則(エントロピー増大の法則)によれば、複雑さを持つものはいずれ、エネルギーの海に戻っていくと説かれている。だが、最初の構造(物質)が宇宙で生まれたのだ。それがどのようにして生じたのか、現代科学は答えを出せていない。しかし、ここに我々のオリジン・ストーリーは始まる。

初期宇宙は水素原子とヘリウム原子の霧が浮かんだ状態だった。そして、ビッグバンのせいで空間はどんどんと広がっていった。だが、重力がエネルギーと物質とを寄せ集めていった。そして第二の臨界を迎え、恒星・銀河が誕生したのだった。さらに第三の臨界を越えると、複雑な元素が次々と生まれていった。そして、やがて太陽系、そして地球が誕生する。

原始の地球は高温で溶けた状態にあった。鉄やニッケル、ケイ素などの重い元素は熱いぬかるみに沈み、中心に金属核を生じさせた。地球は回転をしていたので、この核が磁場を生み、それが太陽風から地表を守ることとなった。地球表面は冷えて個体となり、薄い「地殻」を形成する。

我々が知る生命は、四十億年近く前に誕生したと考えられている。エントロピーに逆らおうと試みる生命は、新しい種類と水準の複雑を持った存在だ。だが、“サンプル”が一つしかないため(我々は地球上の“生命”しか知らない)、生命とは何かを定義することは難しい。生命と非生命との間には曖昧な境界領域があるように見える。あらゆる生物は、自由エネルギーの流れに依存している。その流れが止まると、生物は死ぬ。だが、流れが激しすぎても死んでしまう。生物は環境の変化を耐えず監視して、順応していかなければならないのだ。そんな過酷な状況をかいくぐり、生物はさらに複雑さを増していったのだ。。。

★基本データ&目次

作者David Christian
発行元筑摩書房
発行年2019
副題138億年全史
ISBN9784480858184
原著Origin Story: A Big History of Everything
訳者柴田裕之
  • まえがき
  • 序章
  • 年表
  • 第Ⅰ部 宇宙
    • 1 始まり ー― 臨界1
    • 2 恒星と銀河 ―― 臨界2と臨界3
    • 3 分子と衛星 ―― 臨界4
  • 第II部 生物圏
    • 4 生命 ―― 臨界5
    • 5 小さな生命と生物圏
    • 6 大きな生命と生物圏
  • 第III部 私たち
    • 7 人間 ―― 臨界6
    • 8 農耕 ―― 臨界7
    • 9 農耕文明
    • 10 現代世界の前夜
    • 11 人新世 ―― 臨界8
  • 第IV部 未来
    • 12 すべてはどこへ向かおうとしているのか?
  • 謝辞
  • 付表 人間の歴史に関する統計
  • 解説(辻村伸雄)
  • 用語集
  • 参考文献

★ 感想

天文学、物理学、地学、生物学、そして経済学のそれぞれの入門書をつなぎ合わせた感じ、と言うのが率直な印象。全体を「エントロピー」や「エネルギーの流れ」という考え方で結びつけようとしているけど、科学的な議論と言うよりは、“比喩”として、そういう雰囲気もするかな、と言う程度。全部を並べ立てる意味が分からなかった。
そもそも、「オリジン」が何の何に対するオリジンなのかも不明確。宇宙のビッグバンをオリジンに据えても、人間の根源をそこに求めるには議論が不充分だ。

米国では、キリスト教の唱える天地創造の神話を事実として信じ、その話の流れの中に自分の存在を位置づけている人々が少なくないようだ。時々、「学校の授業では進化論と並列で(排除して?!)、天地創造の物語を教えるべき」と訴える人々のことが話題になっている。そのような土壌を前提にすれば、“新たな天地創造物語”として話を始めるのも必要なのかも知れない。天地開闢の先に今の我々がいる、という話の持っていき方は、キリスト教のそれと同様だ。馴染み深いストーリー展開にして、こちらの世界に引き込もうという目論見か。

ということで第Ⅲ部まではそれぞれの分野の復習という感じ。本論は最終章だ。これの「未来」の話が語りたくて、長々と前置きを書いていたのだと思う。宇宙の時間スケールからすれば、人類の歴史は理知・芥に過ぎない。だが、我々はそれでも生きている。そして、幸か不幸か明日を考える能力・知力を持ってしまった。ゆえに、どう生きるべきかが問題となってしまう。銀河の成り立ちの話をされてもそこからは結局何も導き出されていないが、生物誕生以来の歴史からは「環境の変化」のリズムが我々人間のせいで壊れかけているという説明には納得がいく。そこから未来に向かってどのように身を正すべきかの話になるのも分かり易い。
進歩の歩みを止め、ロハスな生活を送る未来を描くのか、さらに新たなテクノロジーのイノベーションを起こして進歩し続けるのか、さもなくば破滅への道を突き進むのか。著者によると、我々の選択肢は多くないようだ。

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コメント

  1. […] 最近、「オリジン・ストーリー | Bunjin’s Book Review」のような、いわゆる”ビッグヒストリー”と呼ばれる論議が人気だ。だが、各種分野の面白そうな話をつなげただけに見えるものも多く、一つの主義主張・思想として説得力ある形でまとまっているとは思えない。そんな中、本書は「神」という決定論的な思想(全ての”原因”は神である)と、原理主義的(ある法則に則って世界はあるだけ)な科学の変遷とを絡めて語ることによって、人々の思想・考え方・共通認識(”常識”)がどのように変わっていったかを描いている。そこでは、ビッグヒストリーと同じように、ビッグバンが語られ、産業革命の影響も議論され、資本主義世界の台頭も述べられている。だが、本書の方がよっぽど説得力がある、意味がある議論に思えた。 […]

  2. […] 確かに、哲学というと「そ、そ、ソクラテスか、プラトンか~♪」と言うのが”常識”になっている。メソポタミア文明といっても、シュメール”神話”としてしか知らない。中国の諸子百家は良くて実践哲学、悪ければ(?)処世術という感じ。また、インド哲学は唯一”哲学”と称されているけど、なんか神秘主義のイメージが強い。イスラム思想史に至ってはほとんど知らないのが正直なところ。また「オリジン・ストーリー | Bunjin’s Book Review」を読んで、ビッグヒストリーという考え方の可能性を感じるとともに、まだ諸分野の寄せ集めのように感じてしまっていた。そんな時に筑摩書房の案内でこのシリーズの発刊を知り、面白そうと思って読み始めた次第。最初から電子書籍としても読めたのがさらに良し。 […]