★あらすじ
Edmond Kirschはフューチャリスト。科学的手法を用いて未来を“予言”する。予言と言っても、スーパーコンピューターを駆使したシミュレーションを行ったり、科学の最先端研究の成果を見てそれらが世界にもたらす影響を考えたりして行う。そんな彼が世界に向けて新たな“発見”を発表すると大々的な予告を行った。その内容は、宗教(界)に大きな影響を与えると共に、人類全体に関わるものだと喧伝したのだ。そして、発表会場としてスペインの美術館を選び、世界中からVIPを招待した。
そんな招待客の中にLangdon教授の名前もあった。Edmond Kirschは教授の講義を受け、その後も何かと教えを請う仲だったのだ。
このイベント(発表会)は大きな注目を浴びた。その謎に包まれた発表内容も然り。さらには、発表会場美術館の責任者Ambra Vidalは、スペインの王子(病床に就いている現在の王から王位を継ぐ唯一の候補)のフィアンセだったのだ。マスコミは取材のために殺到した。
Edmond Kirschは、自分の発見が宗教そのものの意味・意義を根底から覆してしまうものであると認識していた。そのため、発表会の前に三人の賢者(宗教界の重鎮たち)に極秘に事前説明を行い、意見を求めたのだった。その内容を知った三人は当惑を隠せないでいた。それほど、この発見は大きなものだったのだ。
そして発表会は始まる。Langdon教授もオープニングで紹介され、ちょっと話をする。その模様は世界中にネット配信され、何億という人々が注目していた。ビデオ映像による説明が流れる。今度の発見は、根源的な質問に対する答えだという。その質問とは、「我々は(人間は)どこからやって来たのか。そして、どこへ行くのか(人類の未来はどうなるのか)」というものだった。ほとんどの宗教は、神が人間を、そしてこの世界を創造したと説いてる。そして、いつか人間は神の国へと帰っていくのだと。だが、Edmond Kirschの発見は違っていた。それは。。。。
その時、銃声が会場に響く。Edmond Kirschが撃たれたのだ。彼の答えが明らかになる前に、発表会は中止となる。会場は騒然とした状態に。我らがLangdon教授は、Ambra Vidalと共に重要参考人(?)として拘束されてしまう。
悲劇は始まったばかりだった。Edmond Kirschの答えを事前に聞いていた三賢者が次々に殺されてしまう。これで、答えを知っているのは三賢者の生き残りであるValdespino卿だけとなってしまった。彼はスペインにあってカトリックの教えを厳格に守る保守派であり、現国王の友人、相談役でもあったのだ。
またしても大きな事件に巻き込まれてしまったLangdon教授。彼は愛弟子の遺志を継ぎ、世紀の発見の謎を追うことになる。スペイン王子のフィアンセであるAmbra Vidalと共に。
★基本データ&目次
作者 | Dan Brown |
発行元 | Doubleday |
発行年 | 2017 |
★ 感想
「ダ・ヴィンチ・コード」以来これまでに、宗教に纏わる謎だったり、反物質爆弾に絡んだ陰謀だったりと、色んな難事件に遭遇してきたLangdon教授。今度は人類の、いや生命誕生の謎と、さらには人類の運命にまで関わることになってます。だんだんと話は大きくなっていきますね。
今回もその謎解きがメインになり、その答えを求めて教授がスペインを飛び回るんですが、私も大昔に訪れたことのあるサグラダ・ファミリアやカサ・ミラなど、アントニ・ガウディの作品群が舞台になってます。ベタではあるけれど、“ご当地感”のある舞台設定は楽しいし、話に入り込み易い。やり過ぎると、水戸黄門並みのマンネリドラマになってしまうけど、まだまだ舞台になりそうな場所は一杯あるし、次も楽しみ。
ここから目一杯、ネタバレ。
“Where do we come from? Where are we going?”(我々はどこから来たのか。我々はどこへ行くのか)の問いが繰り返し出てきます。キリスト教もヒンドゥー教も、ゾロアスター教も、それぞれに答えを持っていますが、概して、「世界は神が造った。人は神の元に戻る(天国に行く)」というのがそれ。荒っぽく言えば、答えの分からない質問に対して、何らかの存在を仮定してそれに丸投げしてしまう、と言うことでしょう。それに対してこのKirschさんは、「原始の海」のモデルをスーパーコンピューター(話の中では量子コンピューターを発明したことになっています)でシミュレーションして、「無からDNAの構成要素であるタンパク質の合成が自然発生的に生じた」として、「神様がいなくても生命は誕生できる」ことを明らかにしたのでした。まあ、あくまでもシミュレーションですからね。モデルが間違っていれば、その結果は意味がない訳で、これで答えが出たというのもちょっと乱暴かな、と。モデルのリアリティを証明するのがこれから大変そうです。
あと、神様を否定されてしまったLangdon教授が、こんな複雑な生命は“知的なデザイナー”がいないと無理だと言ってます。あら、彼がID(Intelligent design)信奉者だとは残念です。知的デザイナーがいないと複雑なモノが造られることがないのであれば、そんな複雑なことができる知的デザイナーは誰が造ったの?と、いつまでたっても終わらない疑問が出てしまうのがIDの決定的な弱点。意味のない議論です。
あと、人工知能の“暴走”はよくある“手”なので、もう一捻り欲しかったかな。途中でなんとなく“犯人”が分かってしまいました。これ、炎上商法(マッチポンプ)なのかな、と。
と、ツッコミどころは今回もいくつもある訳ですが、まあ科学書ではなくて娯楽小説ですからその辺りはサラッと流すのがいいのでしょう。そんな感じで読めば、今回の作品も面白かった。
映画化されるのかは分かりませんが、できれば原作に忠実な脚本になるといいな。
William Blakeの詩集が謎解きのヒントに使われているんですが、勉強不足で知らない話ばかり。読んでみなければ。
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