★あらすじ
「異変」から二十五年がたっていた。国土を失った日本人たちは、世界各地へと散らばっていた。そんな状況でも日本という国の体制は未だ維持していて、オーストラリアの入植地に首相を始めとした行政組織を置き、他の国々の入植地にも各省庁が分散して置かれる形を取っている。
そして二十五年目のこの日、世界中の日本人がそれぞれの国(入植地)ごとに集まり、「慰霊祭」を開催することとなった。「慰霊祭」では首相が衛星中継で“国民”に向けてメッセージを送ることとなっている。
ここ、パプアニューギニアでも慰霊祭に参加すべく、各地から人々が集まっていた。パプアニューギニアでは入植当時、インフラもままならない状態だった。日本人はみな、着の身着のまま避難したため、産業機械そのものはもちろん、それらを造る技術もほとんどを失っていた。そんな中、苦労しながらもなんとか今の状態に持ってきたのは、日本人の勤勉さだったり、組織立った仕事の仕方だったり、言わば国民性・民族性のお蔭だったとも言える。
だが、全ての地域でうまく行っていた訳ではない。場所によっては強制収容所に近い施設に詰め込まれたり、その国の政情不安に巻き込まれてその地でも難民となって彷徨うことになってしまった集団もあった。また、二世世代ではだんだんと日本人という帰属意識が薄れていき、現地への同化が進んでいる集団もあった。
悲喜こもごもの日本人たち。そんな彼らが二十五年目の「慰霊祭」を迎えようとしている。
かつて、日本列島があった場所は、今は海が一面に広がっていた。日本国は依然として存在していたし、この地域は海底資源も多く眠ると言われているし、漁場としてもまだまだ魅力的な場所だった。そんな状況なので、各国が虎視眈々と狙っている。そんな争いを避けるため、現在は“制限海域”に指定され、勝手に近づくことさえ禁止されているのだ。だが、日本の自衛隊の船舶が今、この海域を航行し、そしてヘリコプターを飛ばして探索をし始めていた。実は、かつて白山が存在した辺りで隆起が起きたのか、岩が海面から顔を出していたのだ。本の小さな岩場だったが、日本人を改めて結びつける象徴としての意味は大きかった。
首相は、慰霊祭を機に、各地に散らばっていた日本人を再度、集結させたいと思っていたのだ。
だが、悲劇は終わっていなかった。日本列島を海に沈めてしまった天変地異は、実は始まりでしかなかった。日本列島がなくなったことで海流は流れを変えた。また、富士山を始めとして多くの火山が有史以来最大の噴煙を大気に巻き上げていた。そう、それらによって“異常気象”が世界各地で頻発していたのだ。悲劇は、国土を失った日本人たちだけではなく、世界中の人々を巻き込もうとしていた。
★基本データ&目次
作者 | 小松左京, 谷甲州 |
発行元 | 小学館(小学館文庫) |
発行年 | 2008 |
ISBN | 9784094082746, 9784094082753 |
- 上巻
- 序章 竜を悼む
- 第一章 慰霊祭
- 第二章 彷徨える日本人
- 第三章 日本海
- 第四章 難民たち
- 下巻
- 第五章 地球シミュレータ
- 第六章 凍る山河
- 第七章 流氷の海
- 第八章 政変
- 終章 竜の飛翔
- あとがき
- 解説
★ 感想
「第一部」が超スペクタクル巨編だったためか、天変地異は世界規模とスケールは広がっているのだが、その分、進行はスローで緊迫感・危機感は薄れてしまっている印象がある。だが、異常気象に関する科学的な記述や、世界各国のパワーゲームの様子、そして入植地での農業開発プロジェクトのプロセスなど、リアリティは前作以上だ。読み応えは充分。
小松左京も、元からこちらを描きたかったそうで、その状況を生むために日本を沈めたとも言えるらしい。戦後の好景気で浮かれた日本人に対し、改めてアイデンティティを問うと言うことだ。原題も「日本喪失」としてたことからもそれが分かる。非常に重たいテーマを掲げた作品だ。
だからと言って、退屈かというとそんなことはなかった。やはり「第一部」と同様に先が読みたくなってしまい、一気に読みたくなる。ジワジワと迫る異常気象と、世界各国の思惑が絡み合ったストーリーは飽きさせないものがある。その源泉はリアリティだ。恐竜が絶滅したのは、地球に衝突した巨大隕石がまき散らした土砂が太陽光を遮ったことによる気温の低下のせい。そして、ひとたび核戦争が起きると、同様に“核の冬”がやってくるとも言われている。そこまで行かなくても、火山の大爆発があれば気象の異常が生じるのは実体験として感じられる。沈没しつつ火山の噴火を連発させた日本列島の“置き土産”が氷河期を呼び込むこともまんざら嘘じゃないだろうと思えてしまうのだ。
その時、人類はどうなるのだろうか。世界中の英知を集めて乗り切れるのだろうか。それとも混乱の末に恐竜と同様に消え去る運命にあるのだろうか。今回もまた、色んなことを考えさせてくれた。
コメント
[…] 以前読んだ「日本沈没」、「日本沈没 第二部」、「復活の日」もそうであったが、小松左京の作品はリアリティがある。科学・技術に関する既述も細かいし、諸外国とのパワーゲームの描き方も納得感がある。一方で、そんな未曾有の危機に直面した人々のタフさ、使命感に燃える熱さに、人情ものやスポ根ものと同じような高揚感も感じさせてくれる。詰まりは、SF娯楽作品として超逸品ということだ。 […]