題名で既に大筋は見えていますし、知らない人のいない話ではありますが、念のため。
以下、ネタバレありです。
★あらすじ
孤高の研究家 田所博士はとてつもない発見をする。だが、自分でもそれを信じることがすぐにはできず、あらゆるデータを集め、検証することに躍起になっていた。怪しげな団体にスポンサーになってもらい、海底調査の費用を捻出した。そして、深海探査艇わだつみ号に乗り込み、操縦士の小野寺と共に日本海溝へ潜っていった。
丈島の南の海域では異変が起きていた。明神礁近海で海底火山が噴火をし、水蒸気を吹き上げていた。そして、島が一つ、一晩のうちに海中に没したのだ。しかも、火山の爆発などではなく、静かに、まさに沈没するように。。。
日本海溝では、水深八千メートルの海底で田所博士たちは無数の断層(溝)や海底泥流を発見する。さらには、小野寺の記憶によるものだが、海底の形が大きく変わっていることも。
それからまもなく、伊豆大島と三原山が噴火し、さらには伊豆半島の天城山も噴火、続いて浅間山も突如、噴火を始めたのだ。それらの火山は、島が沈没して海底火山が噴火をした地点から北へと延びる線上に位置している。明らかに”関連した”事象だ。
ついには古都京都を大地震が襲う。折悪しく、五山の送り火の真っ最中に「京都大地震」が発生し、死者四千二百、重軽傷者一万三千名の大惨事となった。
その頃、田所博士や、研究を一緒に進めている幸長教授、そして「京都大震災」で被災した小野寺らが突如、世間から姿を消した。小野寺は、何の連絡もせずに海洋調査会社に出社しなくなり、一時は「京都大震災」で亡くなったと思われていた。だが、彼らは密かに政府が発足させた“D計画”のメンバーとして集められていたのだ。“D計画”とは、田所博士が発見した“日本沈没”の可能性を調査し、起こりうるとしたらそれがいつ頃なのかを予測するための研究チームだった。
そう。未曾有の大惨事となった「京都大地震」も単なる序章に過ぎなかったのだ。田所博士は、(通常の)地震の原因であるプレート移動とは全く異なったメカニズムによる地殻変動の可能性を発見してしまったのだった。
★基本データ&目次
作者 | 小松左京 |
発行元 | 文藝春秋(文春e-Books) |
発行年 | 2017 |
目次
- 第一章 日本海溝
- 第二章 東京
- 第三章 政府
- 第四章 日本列島
- 第五章 沈み行く国
- 第六章 日本沈没
- エピローグ 竜の死
- 解説
- 表紙解説
★ 感想
1973年公開の映画「日本沈没」も、翌年のドラマ版「日本沈没」も、そして2006年のリメイク版「日本沈没」(元SMAP草彅剛主演)も見たんですが、原作を読むのは初めてでした。電子書籍として、上下巻が一緒になった「決定版」として今年、発売されたので、この機会にと思い読んでみました。
なぜ、もっと早く読まなかったのかと後悔。映画やドラマで知ったつもりでいましたが、原作はこんなにも深い話だったとは。科学的な下地がしっかりしていて、本当にありうるんじゃないかと思ってしまう理論が展開されるし(マントル対流と天候(温暖前線・寒冷前線・気団)とのアナロジーなどなど)、D計画を遂行していく政府関係者(政治家やら官僚やら)の行動、発言のリアリティも凄いし、世界に対する地勢上・経済上の影響などの分析や、それに対する各国の動きや経済人の対応など、よくも一人でこれだけ広範囲な話が書けたものだと驚き。調査・取材するだけでどれだけのパワーが必要だったのか想像できません。
そんなしっかりとした下地を持って描かれた話は、阪神淡路大震災や、3.11東日本大震災の記憶とも相まって、読み進めていくうちに恐怖を感じるほど。それでもやめられなくて読み続けてしまったんですが、心臓の鼓動が速くなっていくくらいの恐ろしさ。完全に話に引き込まれてしまいました。
個人的経験として、自分の生まれ育った家が取り壊されたことがあったんですが、その時には言い知れぬ虚脱感を感じました。だとすると、日本全体がなくなってしまうってどんな気持ちなのでしょう。国家の定義として、国家を成立させる三大要素とは「領域(領土)・人民(国民)・主権」とされていますが、領土が消えてしまったら日本というアイデンティティはどうなるのでしょう。著者の小松左京氏も、両親が津波やら関東大震災やらを経験し、自身も戦争を体験して、それらを元にこの小説を生み出していったそうですが(「解説」を参照願います)、そんな辺りがテーマになっています。
震災の記憶を風化させないためにも、改めて読んでみる意味はあるでしょう。そしてまた、国土を失った“日本人”たちの行く末を思い、難民問題やパレスチナ・イスラエル(ユダヤ)の問題を新たな視点で考え直してみる機会にもなりそうです。
読むべき一冊でしょう、これは。
★ ここから買えます
あと、Amazon Prime Videoでは1973年版の映画「日本沈没」が観られるようです。
コメント
[…] 「第一部」が超スペクタクル巨編だったためか、天変地異は世界規模とスケールは広がっているのだが、その分、進行はスローで緊迫感・危機感は薄れてしまっている印象がある。だが、異常気象に関する科学的な記述や、世界各国のパワーゲームの様子、そして入植地での農業開発プロジェクトのプロセスなど、リアリティは前作以上だ。読み応えは充分。 小松左京も、元からこちらを描きたかったそうで、その状況を生むために日本を沈めたとも言えるらしい。戦後の好景気で浮かれた日本人に対し、改めてアイデンティティを問うと言うことだ。原題も「日本喪失」としてたことからもそれが分かる。非常に重たいテーマを掲げた作品だ。 […]
[…] パンデミックなんて、中世ヨーロッパのペストや、戦後のスペイン風邪、そして医療体制の脆弱なアフリカでのエボラ出血熱のことで、自分に直接関係するものだという実感が全くなかった。だからこそ、今読むべき一冊と思って本書を読んでみた。映画では観たことがあったものの、原作を読むのは初めてだ。そして、「日本沈没 決定版 | Bunjin’s Book Review」の感想でも書いたが、もっと早く読めば良かったと思う。 […]
[…] 以前読んだ「日本沈没」、「日本沈没 第二部」、「復活の日」もそうであったが、小松左京の作品はリアリティがある。科学・技術に関する既述も細かいし、諸外国とのパワーゲームの描き方も納得感がある。一方で、そんな未曾有の危機に直面した人々のタフさ、使命感に燃える熱さに、人情ものやスポ根ものと同じような高揚感も感じさせてくれる。詰まりは、SF娯楽作品として超逸品ということだ。 […]